日本の広告産業の長い「マス対デジタル」論争は、2026年3月5日に発表された電通「2025年 日本の広告費」の数字をもって、形式上の決着を見た。
2025年の総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)で4年連続の過去最高を更新。そのうちインターネット広告費は4兆459億円(同110.8%)に達し、構成比は50.2%と推定開始以来初の過半数を超えた。1996年に推定が始まった頃の数百億円規模を起点に、ついに4兆円台へ到達した数字でもある。一方、マスコミ4媒体広告費は2兆2,980億円(同98.4%)とほぼ横ばい——絶対額の落ち込みは小さいが、市場全体が伸びる中で位置を譲り続けた結果としての過半数割れだ。
主役交代の中身:動画とソーシャルが牽引、紙・地上波は守勢
この転換を引き起こした主因は明確だ。ビデオ(動画)広告は1兆275億円(同121.8%)と推定開始以来初めて1兆円を超え、構成比は30%を突破した。電通の発表によれば、SNS縦型動画とインターネットに接続されたコネクテッドTV(CTV)が二本柱となる。ソーシャル広告は1兆3,067億円で、インターネット広告媒体費に占める比率は39.5%——いまや「ネット広告ほぼ4割はSNS上」という時代である。マスコミ4媒体由来のデジタル広告費の中でも「テレビメディア関連動画広告」は805億円(同123.3%)と急伸し、無料テレビ番組配信サービスの再生数・ユーザー数が過去最高を記録した。地上波テレビ広告は1兆6,333億円(同99.9%)、新聞は3,136億円(同91.8%)、雑誌は1,135億円(同96.3%)。マス側の動画資産だけがデジタル化の波に乗って成長している構図がはっきり見える。
マーケターの実務に直結する3つの示唆
第一に、予算配分の意思決定単位が「媒体」から「フォーマット」へ移ったことを認める必要がある。同じ動画でも、地上波15秒CM・YouTubeインストリーム・TikTok縦型・CTVの長尺ブランディングでは購買行動への効き方も計測の難易度もまるで違う。媒体予算表を組み替えるだけの形骸化したデジタルシフトは、もはや投資効率の最適化につながらない。
第二に、「動画 + ソーシャル」中心の世界では、クリエイティブ生産体制が競争優位の源泉になる。動画広告1兆円・ソーシャル広告1.3兆円という規模感は、年間に必要なクリエイティブ本数が桁違いに膨らむことを意味する。電通系を含む大手代理店の年次レポートでも、AIによる動画クリエイティブ生成と量産体制の構築が共通課題に挙げられている。Metaの2026年Q1決算が「クリエイティブAIツールの利用広告主が前年同期比で倍増」と報告した(同社決算説明会コメント)のと同じ潮流が、日本でも現実になりつつある。
第三に、プロモーションメディアの「再評価」を見逃してはいけない。プロモーションメディア広告費は1兆7,184億円(同102.0%)と3年連続プラス成長。屋外3,042億円(同105.3%)、交通1,736億円(同108.6%)、イベント・展示・映像ほか4,748億円(同111.2%)など、人流・体験に紐づく領域が伸びた。大阪・関西万博と東京2025世界陸上というイベント要因はあるにせよ、プログラマティックDOOHとリテールメディアの本格普及が始まっている事実は重い。「デジタルに全振り」ではなく、OOHやイベントを含む統合的な接点設計こそが、ネット広告50%超時代の正解になる。
電通インターネット広告媒体費の詳細分析も同日に公表されており、種別・取引手法ごとの内訳は次の戦略立案の必読資料だ。主役は交代した。だが、そこからは新しい配分の戦いが始まる。