2026年9月20日(日)
AI・MarTech

Adobeが"Experience Cloud"の看板を下ろした——電通・WPP・Publicis・Omnicomら6大エージェンシーが揃ってCX Enterpriseに統一、AIコワーカー時代に日本の広告制作はどう変わるか

Adobeは4月20日、Adobe Summit 2026(ラスベガス)で旗艦プラットフォーム「Adobe Experience Cloud」を「Adobe CX Enterprise」へ刷新し、新中核として人とAIエージェントが協働する「CX Enterprise Coworker」を発表した。注目すべきは電通・Havas・Omnicom・Publicis・Stagwell・WPPという世界6大エージェンシーグループが揃って同基盤への標準化を表明したことだ。MCP・A2Aといったオープン規格を採用し、AWS・Anthropic・Google Cloud・Microsoft・NVIDIA・OpenAIと相互運用する設計が、日本の制作・運用現場に何を要求するのかを読み解く。

WebTech Journal 編集部

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「Experience Cloud」という旗印が消えた日

Adobeは4月20日、ラスベガスで開幕したAdobe Summit 2026の基調講演で、長年マーケティングクラウドの代名詞だった「Experience Cloud」を「Adobe CX Enterprise」へリブランディングし、その中核に新たな汎用エージェント「CX Enterprise Coworker」を据えると公式発表で明らかにした。単なる名称変更ではない。Adobeは「点のソリューション」から「カスタマー体験全体をオーケストレーションするプラットフォーム」へと自己定義をはっきり切り替えた格好だ。

MarTechが報じるように、CX Enterprise Coworkerは「クロスセル率を3%引き上げる」といったビジネスゴールを与えると、必要なオーディエンスセグメント・クリエイティブアセット・パフォーマンス指標を自ら集め、施策プランを提示し、承認後に実行・モニタリングまで担う「目標起点」の働き方を前提にしている。従来、人間のマーケターが各ツール間を行き来して担っていた「設計→実行→計測→最適化」の往復をエージェントが包括するという設計思想だ。

6大エージェンシーが「CX Enterprise」標準化に同時署名した重み

発表で最も見逃せないのは、世界の広告ホールディング上位6社、すなわち電通・Havas・Omnicom・Publicis・Stagwell・WPPが揃ってCX Enterpriseの標準採用を表明した点だ(Adobe公式)。さらにAccenture・Capgemini・Cognizant・Deloitte Digital・EY・IBM・Infosys・PwC・TCSといったSIerも、自社IPとAdobeのエージェント基盤を組み合わせて業種別パッケージを構築する方針を示した。

ここに含まれる電通の名前は日本市場にとって重い意味を持つ。日本の主要広告代理店がAdobeの新基盤に乗ることで、クライアント企業のマーケティングオペレーションは「ブランド側のCXプラットフォーム」と「代理店側のオペレーション基盤」が事実上同じレールに統合されていく可能性が高い。代理店ごとのツールスタックの違いから生まれていた"見積もり競争"や"裏側の手作業"が、共通基盤上の差分として可視化されるという見立てもできる。

オープン標準への賭け——MCPとA2Aを採用した意味

注目したいのは、CX Enterprise CoworkerがAnthropicが提唱するModel Context Protocol(MCP)と、Googleが提唱するAgent2Agent(A2A)という異なるオープン規格を同時に採用した点だ。これにより、AdobeのエージェントはCMS Criticが指摘するようにAWS・Anthropic・Google Cloud・Microsoft・NVIDIA・OpenAIといった主要AIプラットフォームと相互運用できる。

さらにNVIDIAとは、規制業種向けにNVIDIA OpenShellのセキュアランタイムとNemotron Open Modelsを組み合わせ、ガバナンス層を備えたエージェント運用を可能にする深い提携も発表された。本誌が23日にOpenAI GPT-5.5とワークスペースエージェント発表で指摘した「AIが"単独ツール"から"チーム化"する転換」が、ここでは別の経路でも同時に進行しているわけだ。

日本のマーケ・制作現場が今すぐ確認すべきこと

CX Enterprise Coworkerの一般提供は「数か月以内」と幅をもって告知されており、日本企業の本格導入はそれ以降になる。しかし筆者は、待つべきではないと考える。一つには、自社の代理店パートナーがすでに採用済の側に回っている可能性が高いからだ。電通グループ・WPP・Publicisを採用している企業は、代理店主導でこの基盤に巻き取られる蓋然性が大きい。

二つには、AIエージェントに「ゴール」を与えて動かす運用は、現場のKPI設計を逆向きから問い直す。たとえば「リード獲得◯件」や「CTR◯%」のような中間指標ではなく、「LTV」「クロスセル率」「解約防止数」のようなビジネス成果に近い目標を、機械可読な形で言語化できるかが問われる。

Adobeはオープン規格を選ぶことで他社AIに依存先を分散したが、データ・コンテンツ・顧客行動ログの所在地としてのCX Enterprise自体への依存は強まる。「乗るか乗らないか」より、「乗ったときに自社のどのデータと意思決定をAdobe側に集約するか」を、夏までに棚卸ししておきたい。

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