「検索して、自分で選んで、買う」の次に来るもの
これまでのオンライン購買は、人が検索し、人が比較し、人がカートに入れて決済する——その全工程に「人の操作」が前提だった。2026年5月のGoogle Marketing LiveとI/Oで、Googleはこの前提を崩しにかかった。鍵は「AIエージェントが、ユーザーに代わって商品を探し、比較し、決済までを実行する」という購買モデルだ。
I/O 2026では、AI Modeの中で条件を伝えるだけでエージェントが予約や手配を進める機能が示され、用途は商品購入にも広がる。Google Marketing Live 2026では、Vidhya Srinivasan氏(Google広告・コマース担当VP)が「AIが実行の複雑さを引き受け、人は本当に大事なことに集中できる世界」と明言した。買い物の“実行”が、人からエージェントへ移る。これが今回の発表群を貫くテーマだ。
Googleが敷いた3本のレール
Googleはこのエージェント経済を、3つのプロトコル/仕組みで支えようとしている。Shopping関連の発表で挙げられたのは次の通りだ。
第一にAgent Payments Protocol(AP2)。エージェントが安全に決済を実行するための共通手順だ。第二にUniversal Commerce Protocol(UCP)。商品情報や在庫、購入導線を、対話型AIの画面(surface)に横断的に流し込むための規格で、Googleはこれを新たな業種へ拡大すると表明した。第三にUniversal Cart。プラットフォームをまたいだ“横断カート”の構想だ。
つまりGoogleは、エージェントが「見つける(UCP)→ まとめる(Universal Cart)→ 払う(AP2)」を一気通貫で行える土台を、いま整備している。あわせて「自社の商品が対話型AIの面に表示され、見つけられるための新しいツールとデータ属性」を提供するとも述べている。ここが本記事の核心だ。
「商品が見つけられるか」が、棚の良し悪しを決める
エージェントが買い物を代行する世界で、ブランドにとって最大のリスクは何か。筆者は「エージェントの選択肢に、そもそも自社商品が現れないこと」だと考える。
人が買う時代には、多少データが不完全でも、ユーザーが画像や口コミを見て補完してくれた。だがエージェントは、機械が読める構造化された商品データ——価格、在庫、属性、レビュー、配送条件——を頼りに候補を組み立てる。データが曖昧な商品は、エージェントの比較テーブルに載らない。実店舗でいえば、棚そのものに置いてもらえないのと同じだ。これは検索のゼロクリック化と同じ構造の問題が、コマース側で起きるということでもある。
一方で、これは機会でもある。ブランド力や広告予算で劣る中小事業者でも、商品データの精度と鮮度で勝てる余地が生まれる。エージェントは“声の大きさ”ではなく“答えやすさ”で選ぶからだ。楽観と悲観の両面がある——ただし準備した者だけが機会を取れる。
日本のEC・D2Cがいま準備すべきこと
この変化は日本にも数カ月遅れで波及する。実務の優先度は次の3点だ。
第一に、商品フィードの“健康診断”。Merchant Centerやカタログの商品データを、価格・在庫・属性・GTIN・画像まで含めて精緻化する。エージェント時代の商品データは、もはや裏方ではなく“最前線の営業資料”になる。
第二に、リアルタイム性の担保。在庫切れや旧価格のままのデータは、エージェントに「信頼できない店」と判断されかねない。データ更新の頻度と正確さが、可視性に直結する。
第三に、レビューと一次情報の整備。エージェントは判断根拠として第三者評価や仕様情報を参照する。自社サイトの製品情報を構造的に整え、レビューを健全に集める運用が、回り回ってエージェント経由の露出を支える。
なお、UCPやAP2、Universal Cartはまだ展開の初期段階にあり、対応業種や国の広がりは段階的だ。過度に身構える必要はないが、「人が選ぶ」前提で作られた自社の商品データを、「機械が選ぶ」前提へ作り替える作業は、いまから始めて損はない。エージェントに選ばれる棚を、誰より早く整えておくことだ。