2026年7月1日(水)
業界動向

マーテック市場「ついに頂上」——15,505製品で成長率0.79%、それでも1,488が新登場・1,367が退場という静かな大淘汰

Scott Brinker氏の「Marketing Technology Landscape」が2026年版で15,505製品となり、前年比+121社・成長率わずか0.79%という史上初の踊り場に達した。だが「数字が動いていない」のは表層で、その下では1,488社が新規参入し1,367社が退場する大規模な入れ替えが起きている。退場企業の51.7%が2010年代に創業したSaaSで、売上1〜10百万ドル規模の中堅が主力だ。Brinker氏はCMSWireで「AIはマーテックの複雑さを消すのではなく、露呈させる」と語っている。本記事ではchiefmartecの2026年レポートの一次データを踏まえ、日本のマーケティング部門が「AIの第一波の道具」ではなく「次の競争領域」に視線を移すべき理由を論じる。

WebTech Journal 編集部

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「マーテック市場はついに頂上に達した——かもしれない」。15年間右肩上がりだった業界の象徴的なグラフが、2026年に踊り場を迎えた。

Scott Brinker氏とFrans Riemersma氏が発表した2026年Marketing Technology Landscapeは、世界で運用中のマーテック製品が15,505に達したと示した。前年の15,384から純増121、成長率+0.79%。2011年に150製品から始まった調査が15年で100倍に拡大した末の「ほぼ横ばい」だ。Brinker氏はCMSWireのインタビューで「『ピークマーテック』に到達したと言える」と述べている。

ヘッドラインの裏で進む「大入れ替え」

「数字が動いていない」のは表層に過ぎない。CMSWireが報じた詳細データによると、2026年は新規追加1,488製品、退場1,367製品。新規追加は前年2,489から40%減、退場は1,211から13%増。生成AIブーム以来初めて、退場率が新規追加率に追いついた。

退場企業の構成も示唆的だ。51.7%が2010〜2019年創業のSaaS——つまり「SaaSの第一波」が体系的に淘汰されている。売上規模で見ると45.5%が100万〜1,000万ドル帯、従業員数では約80%が50人以下。ゼロから売上を立ち上げた後、防御可能なポジションまで成長しきれずに資金が尽きた中堅が、市場から消えている。

Brinker氏は「『ピークマーテック』はピークではなく、プラトー(踊り場)かもしれない。AIラッパー(既存ツールにAIを被せただけの製品)の安易なフェーズが淘汰されつつあり、より持続性の高いAIネイティブ・インフラ志向のカテゴリが立ち上がりつつある」と語っている。市場は止まったのではない。静かに、徹底的に、入れ替わっている。

カテゴリ別の盛衰がはっきり分かれた

レポートは6カテゴリ全てでAI採用率が2024年→2026年で上昇したと記す。変化が大きいのは「マーケティングの基幹システム」だ。Commerce & Salesが28%→49%とほぼ倍増、Dataが61%→75%、Managementが58%→72%。「AIはもはやコンテンツ用ツールではなく、マーケ業務そのものの実行手段になりつつある」とBrinker氏は表現する。

一方、コンテンツマーケ領域は典型的な「Renewal(刷新)」フェーズだ。2023年575製品から2025年1,102製品まで倍増した同カテゴリは、2026年に新規139・退場176と入れ替えが激しい。AIラボがコア機能をコモディティ化し、既存ツールが自前のAI機能を取り込む中で、第一波の専業ツールが品質とブランド一貫性に答えを出せず脱落している。

Native/Content Advertising、Video Advertising、Print、DMP(データマネジメントプラットフォーム)は「Decay(衰退)」分類。レポートはDMPを「衰退しているのではない。6フィート下に埋まっている」と乾いた口調で書く。

AIは複雑さを「消さない」、「露呈させる」

ここから先は筆者の分析を含む。Brinker氏が今回のレポートで最も繰り返した主張は「AIは複雑さを消すのではなく、露呈させる」というものだ。これは日本のマーケティング部門にこそ刺さる警句に見える。

AIがコピーの下書きを手伝っているうちは、システムがバラバラでも「ちょっと面倒」で済む。だがAIが顧客対応をオーケストレートし、商品を推薦し、質問に答え、アクションをトリガーする段階になると、データ品質・ガバナンス・統合・組織内の整合性が、顧客から直接見える形で露呈する。レポートはこの状況を「Oops, your stack is showing(あれ、スタックの中身が透けてますよ)」と表現している。

Brinker氏はCMSWireで、ボトルネックが「制作能力」から「コンテキスト能力」に移ったと語っている。「これまでは『十分なコンテンツが作れるか』『システムをつなげるか』『自動化を組めるか』がボトルネックだった。AIはそれを劇的に楽にする。しかし新しいボトルネックが生まれる——コンテキストだ。どのコンテンツを、どの顧客に、どの瞬間に、どのデータを信頼して、どのエージェントにどのアクションを許すか。勝者は最もAIを使った会社ではない。最も優れた『コンテキスト基盤』を持つ会社だ」。

日本の組織で起きていることへの示唆

日本市場では、まだ「AIをどう使うか」のフェーズで議論が止まっているケースが多い。だがレポートのデータは、その先の問いに答えを用意しはじめている組織が、すでに2024〜2026年の2年間で大きく差をつけたことを示している。

レポートが示すガバナンス指標は特に目を引く。コンテンツ真正性とAI検出は採用率37%、データ系譜は49%、顧客プライバシーと同意管理は47%——いずれも実装側(コーディング・自動化)の75〜83%採用に対して大きく遅れている。「みんなAIでソーセージを作る方法は学んだが、ラベル貼り機械を買ったところはほとんどない」とレポートは皮肉る。EUのAI法は施行済みで、FTCもAI生成コンテンツへの監視を強めている。

もうひとつ見落とせない数字がある。AEO(Answer Engine Optimization)の領域で、「AI回答での自社引用率やエージェント経由のコンバージョン」を計測している組織は、わずか13.6%。本誌が以前報じたゼロクリック検索の拡大を踏まえると、ここを計測できないままでは「AI検索で自社がどう扱われているか」が完全にブラックボックスになる。

「サナギの中身は溶解している」

レポートの表紙にはサナギが描かれている。サナギの中で起きているのは、漸進的な改善ではない。芋虫が一度ドロドロに溶解し、そこから別の生物が組み立て直される。

Brinker氏とRiemersma氏は「マーケティングはいま、その混沌の真ん中にいる」と書いている。古い形——キャンペーン管理、チャネル所有、決定論的ワークフロー、計測可能なゲームとしてのSEO——は溶解しつつあり、新しい形——コンテキストエンジニアリング、エージェント型オーケストレーション、MCPで繋がるスタック——が組み立てられつつある。

サナギを目的地と勘違いした組織は、競合が羽ばたく頃にまだ溶解している、とレポートは警告する。日本のマーケ部門が今やるべきは「どのAIツールを買うか」ではなく、「2027〜2028年に自社の顧客体験を支えるコンテキスト基盤がどうあるべきか」を設計に落とすことだ。

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