米国の小売サイトへのAI経由トラフィックが、2026年1〜3月に前年同期比393%増を記録した。TechCrunchが報じたAdobeの最新データだ。これは「物珍しさで伸びている」段階ではない。同じAdobeの分析によれば、3月時点でAI経由トラフィックは非AI流入より42%高いコンバージョン率を記録し、これは過去最高だった。1年前の2025年3月にはAI流入のコンバージョンは逆に38%低かったから、12カ月で約80ポイントの逆転が起きたことになる。AI経由の訪問者は滞在時間が48%長く、訪問あたり収益も37%高い。AIから来る客は、もはや「冷やかし」ではなく「買う客」だ。本誌が報じたWalmartの買い物代行AI「Sparky」やTikTok Shopの米国での急伸も、この同じ潮流の一部として読むと見通しがよくなる。
ところが、王道だったはずの「チャット内決済」は一度つまずいた
ここで意外な動きがある。OpenAIは2025年、StripeとともにAgentic Commerce Protocol(ACP)を開発し、ChatGPT内で完結する「Instant Checkout」を打ち出していた。ところがCNBCの報道によれば、OpenAIは3月にこのInstant Checkoutを静かに停止した。「目指す柔軟性を提供できなかった」というのが公式説明だ。代わりにOpenAIは、ChatGPT内に小売各社の専用アプリを設け、購入は各社サイトに誘導する方式へ舵を切った。
この転換が示す構図は重要だ。「発見(ディスカバリー)はAIが担い、決済(チェックアウト)は加盟店が握る」という分業へ業界が落ち着きつつある。チャット内ですべてを完結させるより、加盟店が顧客体験と取引を管理する方式が現実解になった。
規格戦争——UCP対ACP
決済をめぐる規格は二陣営に分かれる。OpenAI・StripeのACPに対し、Google・Shopifyと小売・決済企業の連合は1月にUniversal Commerce Protocol(UCP)を立ち上げた。Google側ではすでにGeminiでリアルタイムの価格・在庫表示とGoogle Payによるチャット内決済が稼働し、3月にはGapが大手アパレルとして初めてチャット内購入を解禁、4月にはUlta Beautyが追随した。皮肉なことに、チャット内決済から撤退したOpenAIと、それを推し進めるGoogleが、正反対の賭けをしている。
日本市場にはいつ、どう来るか
これらはすべて米国の話だ。だが過去の事例(Googleショッピングや決済機能の展開)を踏まえれば、日本上陸は早ければ半年〜1年遅れで現れる可能性が高い。日本では商習慣(代引き・コンビニ決済の根強さ)や規制の違いから、米国そのままの形ではなく変形して入ってくるだろう。
日本のEC事業者が今すべきこと
第一に、商品フィードとサイトの「機械可読性」を高める。AdobeはAI流入が伸びる一方で多くの小売サイトがAIに読まれる構造になっていないと警告している。構造化データ、明快な価格・在庫情報、簡潔な商品説明が、AIエージェントに選ばれる前提条件になる。第二に、UCP・ACPいずれの規格にも対応できるよう、Shopifyなど主要プラットフォームの対応状況を注視する。第三に、AI経由の流入を計測軸に加える。「どのAIから来た客がいくら買ったか」を見られない事業者は、最も伸びているチャネルを盲点にすることになる。