「広告枠」ではなく「広告予算」を奪いに来た
OpenAIがChatGPT広告にプロダクトフィード型キャンペーンを追加したことを、Search Engine Landが5月12日に報じた。広告主が商品カタログをアップロードし、対象商品のフィルタを設定するだけで、ChatGPTが商品名・画像・属性から広告クリエイティブを自動生成する。プラットフォームは1広告主あたり最大100万SKUを取り扱えるが、新規パートナーはまず100商品のサンプルフィードで審査を通す必要がある。広告の表示位置は変わらず、応答の直下に「Sponsored」として明示される。
仕組みだけ見るとGoogleショッピングの焼き直しに見える。しかし、Digidayの分析が指摘しているのは、OpenAIの狙いがトランザクションフィーではなく広告予算そのものだという点だ。Eコマースの取引手数料を取りに行くのではなく、ブランドが「買い手に届くため」に使っている広告費を、検索やSNSから引き剥がしに来ている。
「クエリにマッチ」から「対話にマッチ」へ
決定的に新しいのは、広告のマッチング対象が検索クエリではなく会話の意図そのものであることだ。従来のショッピング広告は「ランニングシューズ」というキーワードに反応していた。ChatGPTの広告は、「膝が痛くてもう走れないと思っていたけど、医者に勧められたから40代でもう一度走り出したい」という会話の文脈にマッチする。これは検索広告とは別物の体験であり、別物の購買確率になる可能性が高い。
OpenAIはCPM課金から始まり、すでにCPC課金に対応し、公式発表によればCPA課金も開発中だ。コンバージョンAPIとピクセル計測も提供を始めており、Performance Max的なメジャーメントスタックを丸ごと立ち上げに来ている。
一方で、コマース本体は揺り戻している
ただし楽観だけで読むのは危うい。本誌が先月報じたWalmart、ChatGPTの「Instant Checkout」を切り捨て──「Sparky」自走で示した、AIコマースの主導権争いの本当の形では、ChatGPT内決済のコンバージョン率が自社サイト直接訪問の3分の1にとどまり、Walmartが自社チャットボットへの回帰で7割水準まで戻したことを取り上げた。
つまり今回のプロダクトフィード広告は、「決済はOpenAIに渡さない、しかし露出はOpenAIから買う」という二段構造を強化する動きでもある。OpenAIは商品データベースと購買意図を握り、決済とロジスティクスはリテーラーが握る。両者の利害が一致しているうちは協業として機能するが、ChatGPTが対話履歴から推薦商品を切り替える力を持つ以上、リテーラーは「自社商品を確実に出すために広告を打たざるを得ない」状況に追い込まれていく。これは独自視点だが、長期的にはGoogleショッピングの構造を一段不透明にした版になり得る。
日本のEC事業者が今やるべき3つの準備
第一に、商品フィードの英語化と属性の充実だ。現状ChatGPT広告は米国・カナダ・豪州・ニュージーランドのフリー/Goプランで先行展開されており、日本ローンチは未定だが、過去のGoogleショッピングの展開ペースから見て1年以内に日本市場が視野に入る可能性は十分ある。フィード整備は今から進めて損はない。
第二に、会話文脈に耐えるブランド情報の整備である。検索クエリより遥かに長く、ニュアンスの多い対話に対して、ChatGPTがブランドを正しく結びつけられるかは、商品名のテキストだけでなく、サイト全体の文脈情報(用途、解決される悩み、競合との違い)に依存する。これは結果的にAI Overview対策(GEO/AIO)と地続きの仕事になる。
第三に、Criteo・StackAdaptなど既存アドテクとの接続確認だ。OpenAIはCriteoやStackAdaptを正式パートナーに据えており、既存のリターゲティング基盤を持つブランドほど初期は有利になる。日本国内のリテールメディア各社がいつChatGPT接続を発表するか、注視しておきたい。
「広告を打つ場所」がもう一つ増える、という単純な話ではない。広告と検索とコマースの境界が、対話というUIの中で再定義されつつある。今は実験期だが、後発でキャッチアップするコストは想像より高い。