2026年9月2日(水)
AI・MarTech

Claudeの透かしは「事実が詰まった文章」ほど薄くなる——AI検出の主戦場は、AI判定ではなく凡庸さ判定へ移っている

AnthropicがClaudeの生成テキストへの電子透かしについて技術解説を公開した。注目すべきは仕組みそのものより、同社が明記した「効かない条件」だ。事実が詰まった文章、コード、人間原稿の軽い校正では透かしが薄くなるか付かない。一方LinkedInは透かしを使わず、文体と挙動でAIスロップを判定している。この2つを重ねると、マーケターが本当に警戒すべき対象が見えてくる。

WebTech Journal 編集部

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「自社のオウンドメディアがAI生成と判定されたら困る」——8月に入ってから、この不安を口にする担当者が増えている。だが今月出そろった情報を並べると、警戒すべき対象が微妙にずれていることがわかる。

Anthropicが公開した「透かしが効かない条件」

Anthropicは8月14日、Claudeのテキスト透かしの仕組みを解説する記事を公開した。今後のClaudeモデルは、生成テキストに機械可読な透かしを埋め込む。EU AI Actへの対応であり、8月2日以降、EU市場にサービスを提供するAIプロバイダーはAI生成コンテンツのマーキングを求められる。同じ行動規範に署名した他の主要モデル開発者も、それぞれの実装を進めるとされている。方式はGoogle DeepMindが2024年にNature誌で公開したSynthID-Textの一種だ。

読む価値があるのは、仕組みの説明よりも、同社が正直に列挙した限界のほうだ。

  • 事実が詰まった文章では透かしが薄くなる。次に来る語がほぼ一意に決まる箇所では、透かしが働く余地がない。同社は「ニュートンの主著はPrincipia…」に続く語を例に挙げている。
  • コードも同様。正しい出力が一つしかない場所には透かしが入らない。
  • 人間が書いた原稿をClaudeが軽く校正した場合、ほとんどの語は人間のものなので、透かしが付く余地がほとんどない。文章の長さと編集の深さによっては、検出可能にならないこともある。
  • 短いサンプルでは判定が効かない。長くなるほど確度が上がる。
  • 判定できるのは「Claudeが関与した可能性」だけで、人間が書いた証明にはならず、他社AIの判定もできない。

ここは注意が必要な箇所でもある。一部の報道は「スペル修正だけでも透かしが出る」と伝えたが、Anthropic自身の説明はむしろ逆で、軽い編集では検出可能にならない場合があるとしている。

プラットフォーム側は、透かしを使っていない

もう一方の動きを見る。LinkedInは7月30日、投稿を「Seems like AI slop(AIのスロップっぽい)」として報告できるボタンを導入した。判定に使っているのは透かしではなく、言語・構造・エンゲージメント挙動のパターンだ。汎用的なAIコンテンツの識別精度は94%と説明されているが、誤検知率は公開されていない。背景には、AI検出企業Pangramの調査で、LinkedInの長文投稿の40%超が完全にAI生成だったという数字がある。

2つを重ねると、同じ方向を向いている

ここからが本題だ。透かしとスロップ判定は、どちらも「AI検出」と呼ばれながら、測っているものが違う。にもかかわらず、罰則の向きは一致している。

透かしが強く出るのは、語の選択に自由度がある文章だ。言い換えても意味が変わらない、情報密度の低い文章と言い換えてもいい。プラットフォームのスロップ判定が強く出るのも、同じく凡庸で汎用的な文章である。

つまり、固有名詞・数字・一次情報・自社の判断が詰まった文章は、透かしが薄く、スロップ判定にもかかりにくい。逆に、どのブランドが出しても成立してしまう文章は、両方に引っかかる。マーケターにとってのリスクは「AIを使ったこと」ではなく「代替可能な文章を出したこと」に移っている。この2つを混同している限り、対策の方向を間違える。

ただし、誤検知の問題は別に残る

もちろん楽観はできない。LinkedInの94%という数字は、誤検知率とセットでなければ評価できない。人間が書いた定型的な業界文書が巻き込まれる余地は残る。透かし側も、EU規制の文脈で導入された仕組みが、採用選考や取引先審査といった想定外の場面で運用される可能性がある。「検出されないから安全」ではなく、「検出されても説明できる制作プロセスを持つ」ほうが実務的だろう。

日本の制作現場への含意

EU AI Actの直接の適用対象になる日本企業は限られる。だがAnthropicは透かしをEU限定ではなく提供地域全体で有効にしている。つまり日本のオフィスで書かれたテキストにも透かしは入る。規制の適用範囲は域外なのに、技術の適用範囲には域内外の区別がない。本誌が先日整理した改正個人情報保護法とEUのAI生成物マーキングが同じ年に逆方向へ割れた構図の、続きにあたる話だ。

打ち手は3つに絞れる。

  1. 生成物をそのまま出さない制作フローを持つ。 取材・一次データ・自社の実数値を差し込む作業は、透かしを薄くする効果とコンテンツ価値の向上が同じ方向を向いている。珍しく、コストとリターンが一致する対策だ。
  2. AI利用の記録を残す。 検出されたときに説明できる状態にしておく。
  3. 「AI検出ツールでチェックしてから公開」を運用の中心に据えない。 透かしとプラットフォーム判定は測っているものが違い、どちらのツールも他方を代替しない。

検出を避けるゲームではなく、検出されても困らない中身をつくるゲームに変わった、と考えたほうがいい。

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