買い物かごは、これまで各ECサイトのものだった。Googleが10月15日に米国で公開したUniversal Cartは、その前提を揺さぶる。検索のAIモードとGeminiアプリで、複数の店舗の商品を一つのカートに集められるのだ。
公式発表で確認できること
Google公式ブログによれば、Universal Cartは米国のGoogle検索(AIモード)とGeminiアプリで提供される。主な機能は、異なる店舗の商品を一か所に保存し進行状況をGoogle全体で引き継ぐこと、Shopping Graph(600億件超の商品情報)を使った値下げ・再入荷の通知、プロモコードの提示とGoogleウォレットに基づく決済手段の提案である。購入は、対応店舗ではGoogle Payで数タップ、または商品を加盟店のカートに転送して自社サイトで完了させる、の二択になる。名前が挙がった参加企業はNike、Sephora、Target、Ulta Beauty、Walmart、Wayfairと「多くのShopify加盟店」。いずれの方式でも加盟店が販売者(seller of record)であり、注文確認とサポートは加盟店が担う。
開発者ドキュメントが示す「転送」の実態
注目すべきは、カート転送の仕様だ。Googleの開発者向け資料によると、Cart APIはCreateCart(POST /carts)による作成と転送のみに対応し、Google側と加盟店側のカート内容の更新・削除・同期はできない。加盟店はUCP(Universal Commerce Protocol)のバージョン2026-04-08に対応し、/.well-known/ucpにプロファイルを公開し、認証付きのエンドポイントを用意する必要がある。応答は1秒未満が望ましく、ピーク時の流入に備えた処理能力も求められる。ネイティブ決済の実装は転送には必須ではない。
Search Engine Journalは、加盟店向けの計測にも穴があると指摘する。購入までのファネルはMerchant CenterのUCP分析ダッシュボードで追えるが、公式ドキュメントに「カートに保存された商品数」を示す指標は見当たらない。Shopifyの場合、ダイレクトチェックアウト経由の購入ではGoogleアナリティクスやカスタムピクセルが動作しないとされ、Universal Cart経由の扱いは同記事でも確認できていない。
本誌の考察:カートが「入口」になる
以上を重ねると、次のような構造が見える。第一に、カートという購買意図の可視化装置がプラットフォーム側に移ることで、サイト内のカート放棄対策や再来訪施策の前に、Google上での比較・選別が挟まる。値下げ通知もGoogle側から飛ぶため、価格競争は一段透明になる可能性がある。第二に、加盟店は販売者として残るが、顧客接点の最初の数ステップを失う。転送方式は自社サイトに顧客を連れ戻せる分、データを握りたい事業者には現実的な選択肢だろう。
一方で、この仕組みが検索の購買行動をどこまで変えるかはまだ分からない。Googleは5月の発表に含まれた過去価格の表示やロイヤルティ連携に今回触れておらず、現時点の完成度は未知数だ。
日本のEC事業者が今できること
提供は米国のみで、Merchant CenterのUCP統合ハブも米国で順次展開、豪州・カナダは来年とされる。日本での提供時期は確認できておらず、筆者は少なくとも当面は上陸しないと見るが、確定情報ではない。それでも準備できることは多い。
- 商品フィードの品質を磨く:Shopping Graph上で比較される前提で、価格・在庫・配送情報の正確さが重要になる。
- UCPの要件を技術チームと共有する:
/.well-known/ucp、エンドポイントの応答速度など、自社カートが転送を受け止められるか棚卸しする。 - 計測設計を見直す:外部サーフェス経由の購入がGA4に載らない場合の補完指標を決めておく。
本誌が先に取り上げたAIによるカート投入に関する消費者意識の記事で指摘した「事業者の準備」は、いよいよ具体的な仕様の話になった。