2026年9月2日(水)
業界動向

有害被リンク攻撃が法廷に持ち込まれた——米連邦地裁が退けなかったのは「順位下落」ではなく「アンカーテキストの虚偽表示」だった

競合による有害被リンクの大量設置をめぐる訴訟で、米連邦地裁が被告の却下申立てを退けた。注目すべきは判事の着眼点だ。裁判所が問題にしたのは検索順位の下落ではなく、アンカーテキストが読者を欺いた点だった。順位変動の因果立証という最大の壁を迂回する論理である。ネガティブSEOの被害者に、Googleへの報告以外の道ができるかもしれない。日本で何が使えるか、そして平時に何を記録すべきかまで整理する。

WebTech Journal 編集部

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ネガティブSEOの被害に遭ったとき、これまで打てる手はほぼ2つしかなかった。Googleに報告することと、リンク否認ツールを使うことだ。どちらも相手には何の痛みもない。

米国の連邦地裁で、3つ目の選択肢になりうる判断が出ている。

何が起きたか

イリノイ州北部地区連邦地方裁判所に係属する Montway LLC(Montway Auto Transport)対 Nexus AT LLC(Nexus Auto Transport)事件(事件番号 1:25-cv-13100、2025年10月27日提訴)で、Matthew Kennelly 判事が6月2日、被告の却下申立てをほぼ全面的に退けた。Search Engine Landが8月12日に報じている。

続行が認められたのは、連邦ランハム法(Lanham Act)に基づく虚偽広告の請求、商標関連の請求、およびイリノイ州消費者保護法に関連する請求。却下されたのはカリフォルニア州の不正競争法に基づく請求のみである。

原告の主張はこうだ。被告側の指示のもと、2025年4月から10月にかけて2,350件を超える有害被リンクが作成された。それらはMontwayのドメインを、コカイン販売や無許可銃器といった違法コンテンツに結びつけるものだった。2025年7月以降、検索順位とトラフィックが大幅に低下した——。

重要な前提を先に置く。これは却下申立て段階の判断であり、裁判所は主張の真偽を判断していない。「原告の主張が事実だとすれば、法的に成り立ちうる請求か」を審査したにすぎない。

判事が見ていたのは順位ではなかった

それでも、この判断が実務的に大きい理由がある。判事の論理構成だ。

報道によれば、Kennelly判事は、アンカーテキストがある行き先を約束するように見せながら別の場所へ送るものであった以上、原告が「文言上虚偽(literally false)」と主張したことはもっともらしい、と判断した。

注目してほしいのはここだ。裁判所が問題にしたのは「被リンクによって順位が下がったこと」ではない。「アンカーテキストという表示が、それを見た人を欺いた」ことである。

訴訟実務の観点で言えば、これは最大の障壁を回避する構成だ。

ネガティブSEOの被害を法的に主張しようとするとき、いちばん厄介なのは因果関係の立証である。検索順位は無数のシグナルとアルゴリズム更新の結果として動く。「順位が下がったのは、この被リンクのせいだ」と証明することは、検索エンジンの内部データにアクセスできない民間企業には事実上不可能に近い。同時期にコアアップデートが走っていれば、それだけで被告に反論材料を与えてしまう。

ところが虚偽広告として構成すれば、立証対象は「表示の内容が虚偽か」に移る。アンカーテキストが原告のブランド名を示しながら違法コンテンツへ誘導していた、という事実は、順位データを一切使わずに示せる。ここが効く。

日本で同じ構成が使えるか

ここからは筆者の考察であり、法的助言ではない。筆者は弁護士ではないので、判断が必要な場面では専門家に相談してほしい。

日本には米国のランハム法のような、私人が広く提訴できる連邦虚偽広告法制がない。景品表示法は行政規制が中心で、被害を受けた競合が直接使える私訴の道具にはなりにくい。

現実的な足場になりそうなのは、不正競争防止法と民法709条の不法行為だろう。不正競争防止法には、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為を規律する条項がある。他人のブランド名をアンカーテキストにして違法コンテンツへ誘導する行為が「虚偽の事実の告知・流布」にあたるか——今回の米国判事の論理は、この構成に接続できる余地がある。

ただし日本の裁判例の蓄積は薄い。SEOをめぐる国内の紛争は、これまで業者と発注者の債務不履行争いが中心で、第三者による攻撃を扱ったものは目立たない。前例がないところで争うコストは高い。

証拠は事後には作れない

そして、日本でこの種の主張が可能かどうか以前に、実務上の最大のポイントがある。証拠だ。

攻撃を受けてから遡って集められる証拠は、驚くほど少ない。被リンクは消える。攻撃側が消すこともあれば、スパムサイト自体が落ちることもある。Search Consoleの被リンクレポートは、過去のある時点の状態を遡って参照できるわけではない。順位データも、外部ツールを契約していなければ手元に残らない。

だから平時の運用に組み込むしかない。

  • Search Consoleの被リンクデータを定期エクスポートして保管する。 月次でよい。リンク元ドメインとアンカーテキストの一覧が時系列で残っていること自体が、証拠になる。
  • 順位と自然検索流入を、被リンクデータと同じ粒度・同じ日付で保管する。 別々の場所にバラバラの粒度で残っていると、時系列の突合ができない。突合できない記録は証拠として弱い。
  • アンカーテキストの異常を監視項目に入れる。 順位が下がってから気づくのでは遅い。自社ブランド名を含むアンカーが、身に覚えのないドメインから急増していないか。順位モニタリングより早い検知になりうる。

ネガティブSEOへの備えは、これまで「否認ファイルを用意しておく」という技術的な話だった。今回の判断が示すのは、備えのもう半分が記録の運用だということだ。訴訟にするかどうかは後で決めればいい。決められる状態にしておくことが、いま手を動かす理由になる。

繰り返すが、これは却下申立て段階の判断にすぎない。本案でこの理論が維持されるかは別の話だ。それでも、この訴訟の推移は追う価値がある。

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