米誌Timeの記事ページには、人間の読者には表示されない広告が入っている。正確には、人間向けのHTMLページには出ない。AIクローラー向けに提供されるMarkdown版のページにだけ、スポンサー表記つきのFAQ形式の広告が差し込まれている。
Perplexityはこれを「欺瞞的(deceptive)」と断じ、Timeのマークダウン広告が自社の検索インデックスとエージェントに影響しないよう遮断した。Marketing Tech Newsが8月17日に報じた。
広告の可視性をめぐる論争は長いが、「人間には見えず機械には見える広告」という形は新しい。線引きが決まらないまま、日本の広告主も巻き込まれていく。
何が起きたのか
事実関係を整理する。
Timeはアドテク企業Mobianと組み、記事のMarkdown版に広告を掲載する形式を導入した。Markdownは視覚的な装飾を落としたテキスト版のページで、AIシステムが読みやすい形式だ。広告は広告主が提供・承認した情報をFAQ形式に構造化したもので、スポンサーコンテンツとしてラベルが付いている。Timeは1つのMarkdownページにつきエージェント広告1枠を販売し、コンテンツや期間を指定した出稿もできる。価格は非公開だ。
英The Registerの検証では、ClaudeBot、OAI-SearchBot、PerplexityBotといったAIクローラーにはスポンサーコンテンツを含む版が返され、Googleの標準検索クローラーには人間の訪問者向けHTMLが返された。同誌はクローラーのシミュレーションツールで独自に再現したとしている。
Perplexityの広報担当Jesse Dwyer氏はDigidayに対し、この手法を欺瞞的だと述べ、同様のマークダウン広告を使うパブリッシャーはPerplexityの検索インデックス内で評判・信頼スコアが下がるリスクがあると警告した。
一方でMobianのCEO Jonah Goodhart氏は「欺瞞的」という評価を否定している。この形式はAIシステムに最新のブランド承認済み情報へのアクセスを与えるものであり、それを使うかどうかはモデルが判断する、というのが同社の主張だ。テストにはAlly BankとProject Management Institute(PMI)が参加している。
クローキングなのか、フィードなのか
Googleはクローキングを「ランキング操作とユーザーの誤導を意図して、ユーザーと検索エンジンに異なるコンテンツを提示すること」と定義しており、スパムポリシーは生成AI回答の操作も対象に含めている。ただしGoogleは、Timeの形式がこれに違反するとは述べていない。
ここに解釈の余地がある。「意図」が操作にあるのか、情報提供にあるのかで評価が割れるからだ。
Mobian側の理屈には一定の筋がある。OpenAIはすでに、商品説明・画像・価格・レビュー・在庫といった構造化された商品フィードを事業者から受け付け、ChatGPTの商品検索に使っている。広告主のランディングページ用にOAI-AdsBotという専用クローラーも運用している。AI向けに、人間向けとは別の形式で情報を渡すこと自体は、すでにプラットフォーム側が公式に用意している経路だ。Timeがやっているのは、その経路をパブリッシャーが自前で作り、そこに広告在庫を置いたことにすぎない──という主張は成り立つ。
Perplexity側の反論も明快だ。同社はPerplexityBotをモデル学習ではなく検索結果の表示・リンクのために使うとしている。検索結果に出すためのクロールなら、返ってくるべきは人間が見るページと同じものだ、という立場である。
筆者はこの対立を、広告の是非というより「AIクローラーは検索エンジンなのか、それともAPIなのか」という定義の争いだと見ている。検索エンジンだと考えるなら、人間向けと異なる内容を返すことはクローキングになる。データ供給用のAPIだと考えるなら、構造化された別形式を返すのは当然の設計だ。この定義が業界で固まっていないから、同じ行為が「欺瞞」にも「フィード」にもなる。
業界標準は、まだこれを扱っていない
IABが2026年1月に公開したAI透明性・開示フレームワークは、AIの利用が広告の真正性・アイデンティティ・表現に実質的な影響を与える場合の開示指針を定めている。本誌が8月24日に報じたV2への更新でも、対象は消費者向けの広告・マーケティングコンテンツだった。つまりAIクローラーに配信される広告は、現行のフレームワークが想定していない領域にある。
他のAIプラットフォームの姿勢も揃っていない。Business Insiderの取材に対し、OpenAIとGoogleは同様の措置を取るかどうかを明言せず、Anthropicは回答しなかったと報じられている。TimeのCOO Mark Howard氏はPerplexityに接触し、AI向け広告の標準とセーフガードを議論したいと述べたという。
背景には実需がある。Adobe Analyticsの計測では、2026年1〜3月に生成AIサービスから米国の小売サイトへ流れたトラフィックは前年同期比393%増だった。ただしこれはAIサービスからクリックした人の数であり、AIクローラー向け広告の成果ではない。混同されやすいので明記しておく。
日本の広告主・パブリッシャーが今やること
この論争が日本に上陸するまでには時差があるだろう。だが準備は先に始められる。
広告主側。 自社が出稿している媒体が、AIクローラー向けに別バージョンのページを配信していないか確認する価値がある。仮に「AI向け専用枠」の提案を受けたら、その枠がPerplexityのように遮断された場合の扱いを契約前に確認しておきたい。遮断されれば、そこに置いた情報は届かないだけでなく、媒体側の信頼スコア低下に巻き込まれる可能性もある。
パブリッシャー側。 llms.txtやMarkdown版の提供を検討している事業者は、「AIに読みやすくする」と「AIにだけ違うことを言う」の境界を明文化しておく。同じ実装でも、内容が人間向けと一致していれば前者、広告在庫が乗れば後者に近づく。
共通して。 AIクローラーの用途別の使い分けは既に始まっている。OpenAIはOAI-SearchBot(ChatGPT検索)、GPTBot(モデル改善)、OAI-AdsBot(広告主LP)を使い分けている。robots.txtでの制御は、もはや「AIを通すか止めるか」の二択ではない。用途ごとに判断する段階に入った。
人間が見ないものに、広告費を払う。その是非が定まる前に、市場のほうが先に走り出している。