2026年11月7日(土)
AI・MarTech

Adobe、Experience Cloudを「CX Enterprise」に刷新──「Coworker」エージェントが示す、マーテックの主導権が「ツール」から「OS」に移る瞬間

Adobeは4月20日のAdobe Summit 2026で、看板SaaSであるExperience CloudをCX Enterpriseに改名し、エージェント型AIで顧客接点を統括する新コンセプトを発表した。中核となるCX Enterprise Coworkerは、複数エージェントを目標から逆算してオーケストレーションする。Anthropic・Google Cloud・OpenAIなどを巻き込んだ「開かれた」設計、dentsu・Publicis・WPPがすでに標準採用と発表した点で、Salesforce Agentforceとは異なる賭けに出ている。日本のマーテック責任者が今押さえるべき構造変化を解説する。

WebTech Journal 編集部

編集・執筆

|
|
5分で読める

Adobeは4月20日、米ラスベガスで開幕したAdobe Summit 2026で「CX Enterprise」を発表した。ニュースは単なるブランド刷新にとどまらない。20年近くマーケターのデジタル基盤だった「Experience Cloud」という名前ごと畳み、AIエージェントを前提に再定義した「Customer Experience Orchestration(CX Orchestration)」へ事業ユニットの看板を架け替えた、というのが本質である。Adobeが今動いた意味は、日本のマーテック責任者にとって決して小さくない。

「ツール群の集合体」から「目標で動くOS」へ

これまでのExperience Cloudは、AEM・Marketo Engage・Workfront・Real-Time CDPなどの個別SaaSの集合体だった。発表の中核となるCX Enterprise Coworkerは、その上に新たな層を被せる。例としてAdobeが公式に挙げているのは「クロスセル成果を3%上げたい」というビジネス目標を投げると、必要なエージェント・データ・クリエイティブ・配信先を自動で組み立て、計画を提示し、承認後に実行と計測まで回すというシナリオだ。単発タスクをこなす一発エージェントではなく、シグナルやスケジュールでトリガーされ、結果を学習し続ける「常駐型」である点がポイントになる。

なぜ「開いた」エコシステムを選んだか

注目は提携先の顔ぶれだ。AdobeはAWS、Anthropic、Google Cloud、IBM、Microsoft、NVIDIA、OpenAIとの相互運用を明示し、Model Context Protocol(MCP)エンドポイントを標準として採用した。Salesforceが昨年からAgentforceで囲い込み路線を強めているのとは対照的に、Adobeは自前モデルを売る戦いを避け、「企業のCXワークフローを編成する場所」を取りに行った。dentsu、Havas、Omnicom、Publicis、Stagwell、WPPの6大グローバルエージェンシーが「CX Enterpriseを標準に据える」と表明した点は、流通サイドからの正当化として効いている。

三つ巴のマーテックOS戦争

4月の前後だけを並べても、Microsoftは4月21日にMicrosoft AdvertisingでUniversal Commerce Protocol(UCP)とCopilot Checkoutを発表し、Salesforceは引き続きAgentforce強化を続けている。Adobe CX Enterpriseは、この三つ巴において「クリエイティブからCDP、配信、計測までを単一目標で束ねる」という独自の論点で戦いに加わった。本誌が4月28日に報じたMicrosoft、Copilotに広告と決済を「内蔵」の動きと合わせて読めば、各社が「マーケティングのOS層」を取りに来ているのが見える。

反論──エージェント乱立の「運用負債」

一方でConstellation ResearchやCMSWireは、エージェント自体ではなく「オペレーティングモデルの作り直し」が本当の難所だと指摘する。各部門が独自のCoworkerを抱えると、責任分界・ガバナンス・KPIが破綻するからだ。Adobe自身もMCPによる「共有のインテリジェンスとガバナンス層」を強調しており、これが伴わなければ過去のマーテック乱立期と同じ轍を踏む。

日本企業が今のうちに考えるべき3点

まず、現在のマーテックスタックが「個別ツールの主従関係」で組まれているなら、3年以内に「目標→エージェント→データ→アクション」の流れに編成し直す前提で投資判断を行う必要がある。次に、Coworkerが本格GAになる前のいま、社内のKPIと意思決定権限を整理し、AIに委ねていい判断と人間が握る判断の境界を決めておくことだ。最後に、日本では博報堂DY、電通、サイバーエージェントなどがすでにdentsuグローバルと同じ流れを取り込み始めている。代理店の選定基準が「クリエイティブ品質」から「どのCX OSと組めるか」に移る局面が、今年中に来る可能性が高い。

関連記事

AI・MarTech

GoogleのAIモードに外部アプリが入る——Connected Apps公開プレビューのポリシーから読む、「ページ」ではなく「機能」が選ばれる時代の備え

Googleは10月28日、AIモードとGeminiの中で外部アプリを動かすConnected Appsの公開プレビューを開始した。検索側は現時点で米国・英語のみだが、公式ポリシーは他ツールへの言及や誤解を招く説明文による選択操作、第三者広告を禁じている。報道とポリシーを突き合わせ、日本のマーケターが今のうちに整えるべき3つの準備を整理する。

AI・MarTech

ChatGPTのエージェントに「見えない門前払い」を受けるサイトがある——OpenAIの安全確認「Aura」報告と、ログに残らない遮断の切り分け方

サーバーログに何も残らないのに、ChatGPTのエージェントが自社サイトを開けない。SEJ寄稿が報告したOpenAIのサイト安全確認(通称Aura)は、事例が1社に限られ公式説明もない。確認できた事実と推測を分けたうえで、日本のサイト運営者が行える切り分け手順と、GEO施策の前提として持つべき視点を整理する。