AI Overviewsという機能名を初めて聞いたとき、多くのマーケターは「検索体験の便利な進化」として受け止めた。だが2026年に入ってからの数字は、その認識を産業構造の崩壊として捉え直すべきだと突きつけている。
「58%」という数字の重み
2026年2月、米メディア大手のPenske Media Corporation(ローリングストーンやハリウッド・レポーターを傘下に持つ)は、Googleに対する反トラスト訴訟を補強する文書を連邦裁判所に提出した。同社が主張の根拠として引き合いに出したAhrefsの調査では、AI Overviewsが表示されたクエリにおいて、検索結果上位ページのクリック率(CTR)が約58%減少していることが示された。これは2025年4月時点の34.5%減から、わずか10か月でほぼ倍に拡大した数字だ。
さらにPew Research Centerの調査では、AI Overviewsが表示された場合に通常の検索結果リンクをクリックするユーザーはわずか8%で、AI Overviewsがない場合の15%と比べて半減している。「検索エンジンはユーザーをWebサイトへ橋渡しする」という前提が、Google自身の手で取り壊されつつある。
この動きは米国だけではない。欧州出版社協議会(European Publishers Council)も2026年2月、欧州委員会に対しAI Overviewsに関する正式な独占禁止苦情を提出。Googleが検索市場における優越的地位を使って、自社AIに出版社のコンテンツを「無償で要約させ、トラフィックは返さない」という構造を強制していると訴えている。
「上位表示してもクリックされない」構造
ここで起きていることを正確に整理したい。ランキング自体は変わっていない。SEOの努力が無駄になったわけではない。変わったのは、SERPでの可視性とクリック率の関係である。
従来は「1位=最大のクリック獲得者」だった。AI Overviews時代では、Googleが「あなたのページから抽出した要約」をユーザーに見せ、ユーザーは要約を読んだ時点で離脱する。あなたのページは情報源として消費されるが、トラフィックという見返りは大幅に減る。Penske Mediaが「カニバライズされている」と表現したのは、まさにこの構造である。
Ahrefsが2026年2月に公開した分析では、AI Overviewsはロングテール・高インテント検索の57%で目立つ位置に表示されているという。つまり、購買意図が高くコンバージョンに直結する検索ほど、AI Overviewsに置き換えられる確率が高い——これは広告予算にもアフィリエイト収益にも直撃する。
「GEO」は本当の解決策なのか
こうした状況に対する業界の現在の処方箋は、GEO(Generative Engine Optimization)と呼ばれる新しい最適化手法である。ChatGPT、Gemini、Perplexity、AI Overviewsといった生成AI回答エンジンで「引用される側」になる、つまりソースとして名前が出ることを目指すという考え方だ。
だが冷静に見れば、GEOには本質的な問題がある。仮にGEOが成功し、自社サイトがAI回答内で引用されたとしても、その引用リンクをクリックする読者は限定的だ。前述のように、AI Overviewsがあるとリンクをクリックする確率は約8%に下がる。GEOは「クリックを取り戻す戦略」というよりも「ブランドの想起率を生成AI回答の中に温存する戦略」と呼ぶほうが正確かもしれない。
日本のコンテンツ運営者が今やるべきこと
日本市場では、AI Overviewsの表示頻度はまだ米国ほど高くないが、Googleは2025年末から日本語SERPへの拡大を進めている。先手を打つのであれば、以下のシフトを検討したい。
- 「検索流入で読まれる前提のコンテンツ」を見直す——上位表示しても要約に消費されるなら、要約しにくい構造(独自データ、図表、対話、ケースインタビュー)を増やす。
- 直接アクセスとメルマガを資産化する——検索エンジンを「主要な入口」とみなさない設計に切り替える。トラフィックではなくファンとリレーションを測る。
- 「読まれない前提のSEO」を学ぶ——AI回答に引用される構造(明確な定義、数値、出典の明示、独自性のあるフレーズ)を意識的に組み込む。AIに対するブランディングが、検索におけるブランディングと同じくらい重要になる。
Webの開けた情報流通モデルは、AI Overviews以後、確実に壊れ始めている。これは反トラスト訴訟が解決するかどうかとは独立した、産業構造の問題だ。「検索で1位を取る」がゴールだった時代は終わった。「AI回答で名前を呼ばれる」がゴールの時代に、どう備えるかが問われている。