「ゼロクリック」の物語に逆風データが入った
GoogleのAI Overviews(AIO)が出ると検索クリックは消える——この1年、業界の常識として広まってきた言説に、初めて「底打ち」のシグナルが立ったのは2026年2月だ。
Search Engine Landが報じた最新調査によると、AIOが表示されたクエリのオーガニックCTRは、2025年12月の過去14か月で最低となる1.3%まで沈み込んだあと、2026年2月には2.4%まで戻した。わずか2か月で85%の反発である。調査元はSeer InteractiveのR&D部門で、53ブランド・547万クエリ・24億3,000万インプレッションを2025年1月から2026年2月まで追跡した大規模分析だ。本誌が4月19日の記事で報じた「日本のAI検索利用率3.5倍」と同時期に、米国側ではクリックの底が固まり始めている。
回復の正体は「引用ブランドの一人勝ち」
ただし、楽観論に流されてはいけない。Seerが示したのは「全体平均の回復」であって、勝者と敗者は同じクエリの中で完全に分かれている。
同調査では、AIOで自社が引用されたブランドはオーガニックCTRが+35%、有料CTRが+91%伸びた一方、同じクエリで引用されなかったブランドはオーガニックCTRが65%下落している。つまり、AIOはクリックを消しているのではなく、再分配しているのだ。引用された側に流れ、引用されなかった側からは消える。これは検索結果ページ全体を1つのCTRで語ってきた従来のSEO計測軸では捉えられない構造変化だ。
さらに踏み込むと、引用ブランドの「CTR上昇」も慎重に読む必要がある。Seerは、引用されたブランドのインプレッションが2倍以上に膨らんでいる一方でクリック数自体は横ばいに近かったと指摘している。引用範囲が広がっているのは事実だが、1引用あたりのトラフィック効率は必ずしも上がっていない。「引用されている=勝っている」と早合点せず、引用件数とクリック実数の両方を追う必要がある。
どのクエリでAIOが出るかも、ほぼ固まった
もう一つ重要なのは、AIOがどのクエリで発火するかのパターンが安定し始めたことだ。Seerの追跡では、情報検索クエリでAIOが表示される割合は36%、商業意図のクエリで8%、トランザクション(購買意図)で5%にとどまる。
さらに、情報クエリの中でも比較・質問形式に偏在している。比較クエリ(「AとBの違い」など)では95.4%、質問形式クエリでは85.9%でAIOが発火していた。逆に言えば、「商品名+購入」「店名+予約」といった下流の指名・行動意図クエリは、いまだAIOにほぼ覆われていない。
この偏りはマーケターにとって朗報でもある。ファネルの上流(情報・比較)はAIOによる引用最適化(GEO/AEO)の戦場、下流(指名・購買)は従来型SEOと広告の戦場——という棲み分けが、データで見えてきた。
日本市場で何が起きるか
日本は米国に対してAI Overviewsの本格展開で半年〜1年遅れているが、本誌が報じてきたとおりAI検索利用率は8か月で3.5倍、Hakuhodo DY ONEの「AI検索白書2026」ではビジネス利用が9.4%から29.9%まで急伸している。米国の「2か月で85%回復」のフェーズに、日本も来年前半には到達すると見るのが妥当だ。
ここで日本のSEO担当者が読み違えてはいけないのは、「クリックが戻る=従来のSEOに戻れる」という解釈である。Seerが示した二極化は、回復の局面でこそ顕在化する。クリックが減り続けるフェーズでは「全員が等しく沈む」が、底打ちフェーズでは「引用された者だけが浮上する」のだ。
担当者がいま着手すべき3つの計測リセット
第一に、KPIから「順位」を外し「引用シェア」を入れる。自社ドメインがAIOで何回引用されたか、競合がどこに引用されているかをモニタリングするツール(PromptScoutなどが代表的)を導入する時期に来ている。日本語AIO・Geminiの引用は、まだ既存SEOツールでは可視化が浅い領域だ。
第二に、コンテンツ評価軸を「網羅性」から「断片の鋭さ」に切り替える。AIOは長文ページをそのまま引用しない。回答の根拠になる「短く、確度の高い記述」を抜き出す。本誌が4月16日に報じたChatGPTの引用傾向とも一致する方向だ。記事内の段落単位で「引用に耐える1パラグラフ」を意識的に設計する必要がある。
第三に、レポーティングを「セッション数の前年比」から「引用獲得→指名検索→直接流入」のファネル単位に作り変える。AIOで引用されたブランドは、ユーザーがそのまま指名検索に流れ、直接流入が増える「間接効果」が起きやすい。クリック総量だけ見ていると、AIOで勝っているのに「下がっている」と誤読してしまう。
クリックは戻りつつある。だが戻ってくるのは、引用されたブランドの分だけだ。今年後半は、引用獲得を仕組み化したチームと、検索順位だけ追い続けたチームのトラフィック格差が、決定的に開く半年になる。