AI検索に自社を引用させたい。その施策であるGEOに、10月初旬に公開された2本のarXivプレプリントが冷水を浴びせた。1本は「AI検索の引用は想像以上に簡単に動く」こと、もう1本は「その引用を測る手段が想像以上に不安定」なことを示している。どちらも査読前の論文であり、結論は慎重に読む必要がある。
論文1:架空の概念が、1週間で引用された
Search Engine Journalの解説によれば、Qi Liu氏らによる論文「From Public Posts to AI-Search Citations」(arXiv:2610.11932、10月8日投稿)は、次の実験を行った。
研究者らは10のAI検索ツールに120の質問を投げて引用元を調べ、各ツールで最も引用され、かつ新規アカウントでも投稿できるサイトを選んだ。そこに「Cactus Gravity Protocol」という架空の概念などを一般ユーザーとして投稿し、1週間毎日質問を続けた。結果、10ツール中8ツールが1週間以内にこの架空概念を引用した。英語圏の4ツール(ChatGPT、Perplexity、Grok、Google AI)はすべて含まれる。Grokでは32回答中30件が投稿にリンクし、仕込んだ架空の詳細まで53%が再現した。一方でPerplexityの詳細再現は0%(n=35)だった。
もう一つ見逃せないのは、投稿先の違いだ。頻繁に参照されるサイトへの投稿は、すべてのペアでより早く引用や詳細の再現を生んだ。低参照サイトでは、最良のケースでも20本の投稿が必要で、自前WordPressサイトへの40本の投稿は7日間で参照ゼロだった。さらに、GEO業者の中国語圏向け投稿パッケージ(14ドルで13本、約28分)で、Doubaoが1時間以内に仕込みの詳細を参照した例も報告されている。
論文2:ChatGPTの引用は、外部データで再現しにくい
もう1本は、Yunxuan Jiang氏らの「Understanding ChatGPT Citations」(arXiv:2610.15382、10月11日投稿)だ。SEJの報道では、80問を各20回実行し、Google検索結果とOpenAIのResponses APIを代替指標として比べている。
論文によれば、両者を合わせても、ChatGPTが引用したページ(URL)の再現は約4分の1にとどまる(GPT-5.3 Instantで28.3%、GPT-5.5 Instantで26.2%)。サイト単位なら約半分まで上がる。しかも同じ質問でも、ある1回の実行にしか現れないページが4割超(GPT-5.5で44.5%)あった。ChatGPTは元の質問文をそのまま検索せず、英語で検索し直す傾向(中国語の質問の約7割で英語のみ)も見えた。
2本を重ねると見えるもの
ここからは筆者の考察だ。論文1は操作の容易さ、論文2は測定の難しさを示す。組み合わせると、GEOには次の構造がある。
第一に、「引用された」という結果だけでは施策の成果を判断できない。引用は仕込みでも起こり、同じ施策でも実行ごとにぶれる。第二に、順位計測ツールの値を「ChatGPTでの露出」と読み替えるのは危険だ。論文2の著者自身も、計測ツールのデータがAPI由来かアプリ由来かを確認してから比較するよう勧めている。第三に、ツール提供側は対策を進めている。SEJによればDeepSeekは自社検索で「GEO manipulation」を除去すると述べ、Googleも5月にスパムポリシーが生成AIの回答にも適用されると明確化した。短期の「仕込み」は寿命が短い可能性がある。
限界と、実務での使い方
留意点は多い。論文1は架空の概念で実験しており、実在ブランドや商品の問い合わせに当てはまるかは不明だ。サンプルは1ツールあたり20〜35回答程度と小さく、Googleのどの製品を使ったかも特定されていない。論文2はGPT-5.6やGPT-6より前の設定で、商用の計測ツールそのものは検証していない。日本語環境での再現も確認されていない。
そのうえで、日本のマーケターが今できることは3つある。
- 「引用1回」ではなく複数回実行の出現率で見る。同じプロンプトを複数回回し、ページ単位とサイト単位の両方で追う。
- 自社と競合の言及源を棚卸しする。AIが頻繁に参照するプラットフォームでの、事実に基づく正確な情報の整備が優先だ。
- 虚偽の情報を仕込む手法には手を出さない。ポリシー違反のリスクに加え、発覚時のブランド毀損が大きい。
GEOは「やれば測れて、測れば改善できる」施策になっていない。いまは、測定誤差を前提にした小さな検証を積み上げる段階だと見る。