2026年10月12日(月)
AI・MarTech

電通がAISASを22年ぶりに書き換えた「AIJES」——中心に置いたのがAIではなく人間の「判断」だった理由

国内電通グループ4社が新購買行動モデル「AIJES」を提唱した。Search(検索)がInteraction(問答)に、Attention(注意)がArchive(蓄積)に置き換わり、中心にはJudgment(判断)が人間の役割として据えられている。その5日後に電通デジタルはAI自律購買を前提としたACO支援サービスを開始した。この2つをどう読むか。モデルの弱点と、Archive/Scoreを今日から実務に落とす方法を示す。

WebTech Journal 編集部

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AISASの「S(Search=検索)」が、ついに消えた。代わりに入ったのは「I(Interaction=問答)」。そして新しいモデルの中心に据えられたのは、AIではなく人間の「判断」だった。

AIJESとは何か

国内電通グループ4社(電通、電通デジタル、電通総研、電通マクロミルインサイト)は2026年9月10日、AI時代の新しい購買行動モデル「AIJES(アイジェス)」を提唱した(商標出願中)。

構成は5つのプロセスである。

  • 蓄積(Archive)
  • 問答(Interaction)
  • 判断(Judgment)
  • 参加(Engagement)
  • 評価(Score)

人とAIが協働しながらこの5ステップを歩み、それが循環していく点に特徴があるとされる。2004年に同グループが提唱したAISASの発展形であり、購買行動の過渡期においては両モデルがしばらく並走することも想定している。

リリースで明示されているのは、これが「最終的な意思決定を担う人間の『(直感も駆使した)判断』に着目したモデル」だという点だ。判断の質を高めるには、ニーズ潜在期における情報蓄積と、ニーズ顕在期のAI経由だけではない統合的な情報入手が重要だと述べている。

役割分担も公表された。電通が戦略立案、電通デジタルがCX設計と施策実行、電通総研が2026年1月に新設した「AI開発センター」を中心にAIアプリケーション/AIエージェントの開発とPoC、電通マクロミルインサイトが調査・インサイト分析を担う。グループは2025年からAIJESモデルの実践を推進していたとしている。

書き換えられた2文字が、前提の転換を示している

注目すべきは、AISASから変わった最初の2文字だ。

A:Attention(注意)→ Archive(蓄積)。 旧モデルは「まず注意を引く」から始まっていた。新モデルは、生活者側にもAI側にもすでに情報が溜まっている状態から始まる。広告が最初の接点だという前提が外された。

S:Search(検索)→ I:Interaction(問答)。 検索は「探す」行為だった。探す主体は人間で、結果の取捨選択も人間がやっていた。問答は「相談する」行為である。回答の粒度と順序をAIが決める。そしてその問答の中には、すでに広告が入り始めている(本誌9月17日ChatGPT広告が「会話する広告」になる)。

この2つの置き換えは、マーケターの打ち手の位置を大きくずらす。注意を引く場所への投資から、蓄積される情報の質への投資へ。検索結果で上位に立つ設計から、問答の材料として引用される設計へ。実務的には、これはLLMO/GEOと呼ばれている領域とほぼ重なる。

中心に人間を置いたモデルと、人間を外すサービスが、同じグループから同時に出ている

ここが筆者の一番引っかかった点だ。

AIJES発表の5日後、9月15日に電通デジタルは「エージェンティックコマース最適化(Agentic Commerce Optimization:ACO)」支援サービスの提供を開始している。AIエージェントが商品情報と購入条件を正しく理解し、商品を適切に比較・推薦するよう最適化する——つまり、購買の比較検討をAIが担う前提に立ったサービスだ。

一方でAIJESは、中心にJudgment(判断)を置き、それを人間の役割だと明言している。

これを矛盾と呼ぶこともできる。筆者はむしろ、賭けの分散だと見る。完全自律購買がどこまで広がるかは、現時点で誰にもわからない。人間の判断が残る前提のモデルと、残らない前提のサービスを同時に持っておくのは、事業戦略としては合理的だ。

ただし、クライアント側から見ると話が違う。どちらの前提で今後3年の投資判断をすべきかについて、この2つの発表は指針を与えていない。「人とAIの協働」という言い方は、その判断を先送りできる便利な表現でもある。

モデルの評価基準は「当たっているか」ではない

購買行動モデルは、記述の枠組みであって予測装置ではない。

AISASが22年使われたのは、それが正確だったからというより、代理店とクライアントの会議室で共通言語として便利だったからだ。企画書の構成、KPI設計の分割、施策の役割分担。それらを揃えるための座標軸として機能した。

AIJESも同じ基準で評価されるべきだと考える。問うべきは「当たっているか」ではなく「使えるか」である。

その観点で、現時点の弱点も指摘しておきたい。5つのプロセスのうち、マーケターが直接介入できるのはArchive、Engagement、Scoreの3つだ。中心にあるJudgmentは生活者の内面であり、Interactionの大半はAI事業者側のブラックボックスに入っている。モデルが描く領域と、打ち手を持てる領域が一致していない。

そして、日本のマーケティング業界には購買行動モデルが多すぎるという批判は昔からある。AIDMA、AISAS、SIPS、DECAX、ULSSAS。頭字語が増えること自体は前進ではない。

実務にどう落とすか

Archive(蓄積)は、LLMO施策そのものだ。 「AIが学習・参照できる形で自社情報が存在しているか」と読み替えればいい。構造化データ、一次情報、明確で検証可能な事実記述、社名と商品名の一貫した表記。この工程は今日から着手できる。

Score(評価)は、レビュー施策の位置づけを変える。 購買後のレビューやUGCがAIの回答に組み込まれ、次の誰かのInteractionの材料になる。レビュー施策は「SEOの補助」から「AI回答の原材料」へと役割が変わる。集める量より、具体性と検証可能性が効く。

Judgment(判断)に人間が残る前提を採るなら、着地点への投資は減らせない。 AI経由の流入が増えても、最後の一押しは依然として自社サイト・店頭・接客の仕事である。流入経路の変化に気を取られて着地点の説得力への投資を薄くするのは、順序が逆になる。

モデルの良し悪しは、発表時点ではわからない。AISASが評価されたのは2004年の発表時ではなく、その後10年かけて使われ続けたからだ。AIJESが同じ道を辿るかは、頭字語の出来ではなく、Interaction(問答)の中身をどこまで可視化できるかにかかっている。そこが見えないままなら、モデルは現状の記述で止まる。実務を動かす道具にはならない。

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