ChatGPT広告に出稿すべきか。OpenAI側の「3倍のROAS」といった事例は出てきたが、第三者の大規模データはほぼなかった。そこに2026年10月付のワーキングペーパー(査読中)が出た。ウィーン経済大学とフランクフルト・スクールの研究者による論文は、ChatGPT広告の段階的な国別展開を利用し、広告が収益を支えうるのかを検証している。結論は「現状の成果は無料提供のコストを賄うには足りない」というものだ。
数字で見る:訪問あたり売上は約36%
Search Engine Journalの解説と論文によると、米国の有料トラフィックでの訪問あたり売上は、ChatGPT広告が0.89ドル、Google有料検索が2.45ドル。コンバージョン率は0.37%対1.17%だ。ChatGPT広告のクリックが有料検索と同じ広告費対売上になる「パリティ価格」は約0.26ドルで、サンプル内の有料検索CPC中央値0.72ドルを大きく下回る。論文は、公開情報で最大の出稿アカウントが支払ったとされる1.72ドルとも比較している。
出稿が売上につながったかどうかにも偏りがある。両チャネルを使う87広告主のうち84社は、ChatGPT広告の訪問あたり売上が有料検索を下回った。さらに73社は売上ゼロで、ChatGPT広告経由の購入570件はすべて残り14社が生んだ。
この数字をそのまま信じてはいけない理由
筆者はここが重要だと考える。論文自体が複数の限界を示している。
- 最終クリック計測であり、後日の購入や粗利率の差は反映されない
- 1広告主が購入の66%を占め、結果が偏る
- 広告を出す企業が自ら選んだ結果であり、因果とは言い切れない
- 展開前の傾向が揃っているかの検定を、5グループ中4つが単独では通過していない
- データ提供元のGrips Intelligenceと著者の一人に顧問関係がある(論文に開示済み)
ChatGPT広告が出始めて半年あまりという点も割り引く必要がある。OpenAIは自社FAQで、業種や広告主横断の成果ベンチマークはまだないと説明している。逆に言えば、オークションが育てば単価と成果の関係は動く。0.26ドルという水準は「今の相場の高さ」を示す指標として読むのが妥当だろう。
オーガニックへの影響は「小さな減少」
もう一つの発見は、広告開始後の自然流入だ。ChatGPTからのオーガニック参照は、最初の13週で約5.9%減(区間は-12.6%〜+1.2%)、地域差を補正すると6〜8%減と推定される。ただし信頼区間はゼロをまたぎ、オーガニック経由のコンバージョン率は変化が検出されなかった。広告開始=自然流入が急減、とは読めない。
日本の広告主が今やるべきこと
- テスト予算は「CPC上限」で設計する:有料検索の成果を基準に、許容CPCを逆算する。論文の0.26ドルは米国EC中心の平均なので、自社の粗利と客単価で必ず再計算する
- 計測を最終クリックだけにしない:ChatGPT経由は比較検討の途中接点になりやすいと考えられる。アシスト貢献やブランド検索の増減も並べて見る
- 出稿の判断を「全部か無か」にしない:成果が出たのは一部の広告主に偏った。業種・商材の相性を小さく検証してから広げる
関連して、本誌が先に報じたChatGPT広告の文面・遷移先の自動書き換えは、広告主が管理しにくい要素が多いことを示していた。成果が不安定な段階で管理もしにくい、という二重の不確実性がある。現時点では「学習のための小さな実験枠」として扱うのが現実的で、本格配分は日本語圏のデータが出てからでも遅くない。