Googleが「うちを指名してください」ボタンを配りはじめた
8月20日、Google Search Ecosystem のゼネラルマネージャーである Mrinalini Loew 氏の署名記事で、Googleは新しい Preferred Sources ボタンを発表した。
仕組みは驚くほど素朴だ。パブリッシャーが自分のページに埋め込みコードを置く。読者がそのボタンを押す。すると、そのサイトがGoogleの「優先ソース」に追加され、読者は読んでいた位置にそのまま戻る。検索画面へ飛ばされることもない。コードは Google Search Central のドキュメントで配布されている。
優先ソース機能そのものは新しくない。日本語を含む全言語への展開は2026年5月1日だった。トップニュースの横にある星型アイコンをタップして、優先表示したい媒体をリストに入れる——あの機能である。
新しいのは、登録の導線がGoogleの画面からパブリッシャーの画面へ移ったことだ。
20万件が60万件になった3か月半
数字で追うと変化がはっきりする。
Googleの日本語版ブログは5月1日時点で「20万件以上の多種多様なサイトがユーザーによって選択されている」と書いていた。8月20日の英語版発表では 600,000 unique sources となっている。3か月半で約3倍だ。
そして5月の発表にはもう一つ重要な数字がある。特定のサイトを優先ソースに設定した読者が、そのサイトをクリックしてアクセスする割合は2倍になる(Google公表値)。
Googleの説明によれば、優先ソースに登録された媒体は「トップニュース、AI Overviews、AI Mode」で読者に見つけてもらいやすくなる。ここが今回の発表で最も重い一文だと筆者は考える。
AI Overviews と AI Mode は、パブリッシャーにとってこの2年でトラフィックを最も削った機能である。その内側に、読者の指名という形で優先枠が開いた。
権限は委譲された。ただし、すでに読者がいる媒体にだけ
これは「Googleが順位を決める」から「読者が指名する」への部分的な権限委譲だ。歓迎する声が出るのは当然だろう。
ただ、委譲された権限を行使できるのは、すでに読者との接点を持っている媒体だけである。ボタンは、そのページに人が来て、内容を読み、もう一度読みたいと思って初めて押される。検索経由の一見客が大半を占めるサイトでは、設置しても押されない。
つまりこの機能は、常連読者を持つ媒体には救命ボートだが、検索流入だけで成り立っていた媒体には何も渡さない。AI検索によるトラフィック減の打撃は後者のほうが大きいので、格差は開く方向に働く。5月のGoogleブログにコメントを寄せていたのがダウ・ジョーンズだったのは象徴的だ。ボタンが効くのは、そういう媒体である。
Discoverは「見たいもの」より「見たくないもの」を減らす
同じ発表で、Discoverのカスタマイズも変わる。フィードの三点メニューから、自然文でGoogleに希望を伝えられるようになる。Googleが挙げた例は「エコフレンドリーなキッチンリフォームのアイデアが見たい」「週末のロードトリップ動画、ただしキャンプは除く」。フィードは即座に調整され、その指示を記憶する。近日中にGoogleアプリで展開される。
日本のメディアにとってDiscoverは、検索と並ぶかそれ以上の流入源だ。だから神経を使って読むべきなのだが、ここには読み筋が二つある。
楽観側は「関心の合う読者に届きやすくなる」。悲観側は、自然文の指示は『増やす』より『減らす』に使われやすいという点だ。人は好きなものを言語化するのが下手で、嫌いなものを言語化するのは得意である。「キャンプは除く」のような除外指示が積み上がったフィードは、既存の関心を強化し、偶然の出会いを減らす。Discoverの価値の相当部分は、その偶然だった。ここは今後の流入データで検証すべき仮説であって、現時点で確定した話ではない。
Google Newsの音声ブリーフィング(Android)もトピック指定でカスタマイズできるようになり、出典表示と本文へのリンクが付く。Googleは「news AI pilot program」に参加するパブリッシャーのおかげで主要ニュースを深く扱えるとしている。
今週の実務
やることは短い。
- Preferred Source ボタンを設置する。 Search Centralにコードがある。設置コストは低く、押されれば当該読者のクリック率は2倍(Google公表値)、しかもAI Overviews / AI Modeでの露出につながる。今のところ、AI検索の内側に自社の席を確保する数少ない公式手段だ。
- 置き場所を考える。 グローバルナビよりも、記事を読み終えた直後が効く。押すのは「もう一度読みたい」と思った瞬間の読者だけである。
- Discoverのカスタマイズが効き始めたあとの流入変化を、記事カテゴリ別に見る。 全体PVで見ると変化が均される。減るカテゴリと増えるカテゴリに分かれるはずだ。
本誌が報じたAIクローラーはJSで挿したリンクを1本も辿らなかったという話と同じで、AI検索まわりの実装は「置いてあるか」で結果が決まる場面が増えている。ボタンも同じだ。設置していないサイトは、読者が指名したくても指名できない。
出典
- Personalize the content you see on Search, Discover, and News(Google公式ブログ・一次ソース)
- Google 検索 の Preferred Sources 機能が日本語で利用可能に(Google公式ブログ日本語版・一次ソース)
- Google Expands Personalization Across Search, Discover & News(Search Engine Journal)
- Google now lets you chat to customize Discover, tune News audio briefings(9to5Google)