「広告をクリックするとランディングページ(LP)に飛ぶ」——運用型広告が長らく前提としてきたこの構造が、静かに書き換えられようとしている。7月31日、Search Engine Roundtableは、ChatGPT広告の管理画面に「Agent」という新しいキャンペーンタイプが存在することを報じた。クリック先はWebサイトではなく、広告主の「ビジネスエージェント」との会話だ。
確認された事実——広告の行き先が「エージェントとの会話」になる
発見者はEC業界アナリストのJuozas Kaziukėnas氏。同氏のLinkedIn投稿によれば、この仕組みは3段階で構成される。まずOpenAIが広告主のWebサイトをスクレイプし、よくある質問・サポート情報・事業の文脈を含む「ビジネスプロフィール」を自動構築する。次に広告主は、定義した指示とビジネスプロフィールに加え、商品フィードやMCPツールへのアクセス、カスタムフォームによるリード獲得機能を備えた「ビジネスエージェント」を作成する。そして広告キャンペーンのリンク先を、URLではなくこのエージェントに設定する。技術基盤はcustom GPTsと同じだという。
ただし現時点でOpenAIの公式発表はなく、実際に配信されている広告も確認されていない。管理画面への実装も一部の広告主に限られ、Search Engine Roundtableのアカウントでは「標準」と「商品フィード」の2タイプしか表示されないという。「発表前のテスト段階の機能」というのが正確な現在地だ。
急拡大するChatGPT広告——日本は既に「配信対象国」である
このニュースを日本のマーケターが気に留めるべき理由は、展開スピードにある。OpenAIの公式ブログによれば、ChatGPT広告のテストは2026年2月9日に米国で始まった。対象は無料プランとGoプランのログイン済み成人ユーザーで、Plus以上の有料プランには表示されない。3月にはカナダ・オーストラリア・ニュージーランドへ、5月7日には英国・メキシコ・ブラジル・韓国、そして日本への拡大が発表された。Japan Timesによれば、日本でも6月に配信が始まったと報じられている。
つまり、Agent型キャンペーンが正式化すれば、日本の広告主の管理画面に届くまでの距離は短い。
「運用のエージェント化」と「接客のエージェント化」が同時に進む
本誌は先日、TikTokがMCPサーバーの上に広告運用AIスキルのマーケットプレイスを構築した動きを報じた。あちらは広告の川上、つまり「運用」のエージェント化だ。今回のAgent型キャンペーンは川下、「接客」のエージェント化である。広告産業の入口と出口の両方で、人が担っていた仕事がエージェントに置き換わる変化が同時進行している。
競合の動きも重なる。GoogleはすでにAI Modeのショッピング広告文脈でエージェント的な仕組みを発表しており、ChatGPTがYelpのレビュー・見積依頼データを取り込む提携と重ねると、OpenAIは「調べる→比較する→問い合わせる」という購買行動の全工程を自社面内で完結させようとしている——と筆者は見る。
考察:LP・フォーム・計測という3つの前提が崩れる
ここからは考察である。第一にLPの役割。クリック後の説得をエージェントが担うなら、LPは「人を説得する装置」から「エージェントに読ませる情報源」へ変わる。スクレイプでビジネスプロフィールが作られる以上、サイト上のFAQ・価格・サポート情報の正確性と網羅性が、そのまま接客品質になる。
第二にリード獲得。カスタムフォームが会話の中で完結するなら、CVポイントの定義もCRMへの接続も再設計が必要になる。第三に計測。会話はOpenAIの面の中で起きる。OpenAIは広告原則で会話のプライバシー保護を掲げており、広告主が会話データをどこまで参照できるかは不明だ。ラストクリック型の計測がさらに形骸化する可能性がある。
一方で慎重な見方も添えておきたい。custom GPTsと同等の技術なら誤案内のリスクは残り、規制業種では審査の枠組みも未整備だ。テスト段階で消える機能である可能性も十分ある。
日本のマーケターが今から準備できること
それでも、方向性への備えは無駄にならない。サイト上のFAQ・サポート・価格情報を構造的に整備すること、商品フィードの品質を上げること。これらは検索のAI化対策と完全に重なる。「エージェントに正しく読まれる企業情報」の管理が、LP制作に代わる新しい仕事になりつつある。