2026年9月2日(水)
業界動向

300紙が仏競争当局に駆け込んだ——AI Overviews問題は「隣接権のある国」と「ない国」に分岐した。日本のサイト運営者に残された交渉材料は何か

フランスの新聞社団体APIGが8月11日、Google のAI Overviews利用に対する報酬を求めて競争当局に申立てを行った。武器は2019年EU著作権指令に由来する「隣接権」であり、Googleは2022年に同法で5億ユーロの制裁金を受けている。一方、英CMAは6月にオプトアウトを義務づけた。日本には隣接権がなく、新聞協会も4月に制度整備を国に求めたまま。法制度の有無が交渉力の差として表面化しはじめた構造と、法を待てないサイト運営者が今できる実務を整理する。

WebTech Journal 編集部

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フランスの新聞社団体APIG(Alliance de la Presse d'Information Générale)が8月11日、Googleを国の競争当局(Autorité de la concurrence)に申し立てた。ル・モンド、ル・フィガロ、レゼコー、レキップなど約300紙を束ねる団体が求めているのは、AI OverviewsとAI Modeで自社記事が使われることへの報酬だ。

注目すべきは、彼らが「AI Overviewsをやめろ」とは言っていない点である。APIG会長のMarc Feuillée氏はVideoWeekの取材に対し、出版社側はイノベーションの停止を求めているのではないと明言している。狙いは、Googleを交渉のテーブルに戻すことだ。

交渉のテーブルは、法律が用意した

APIGが持ち出した根拠は、フランスの「隣接権(droits voisins)」だ。2019年のEU著作権指令に由来し、大規模なデジタルプラットフォームがプレスコンテンツを利用する際、発行社と交渉して対価を合意することを義務づけている。Googleはこの法律の下で2022年に5億ユーロの制裁金を科され、その後「誠実かつ透明・非差別的に交渉する」というコミットメントを提出した経緯がある。

APIGの主張は、そのコミットメントがAI OverviewsとAI Modeには履行されていない、というものだ。競争当局のBenoît Cœuré委員長自身が以前から「AI Overviewsが利用する保護コンテンツは隣接権に基づく報酬の対象であるべきだ」と述べており、当局が受理する余地は小さくない。

影響の大きさについてAPIGは、フランスの通信規制当局の推計として、AI要約が稼働している欧州市場では発行社のトラフィック減少の33〜38%がAI要約に起因するというデータを引いている。ここで注意したいのは、これは「トラフィックが33〜38%減った」ではなく「減少分のうち33〜38%がAI要約起因」という寄与度の数字である点だ。他メディアで前者として引用されているケースがあるが、原典に照らせば後者が正しい。

英国は「止める権利」、フランスは「もらう権利」

同じAI Overviews問題でも、規制の切り口は国によって違う。英国の競争当局CMAは6月3日、Googleに対し、発行社が通常の検索結果から消えることなくAI検索機能への利用だけをオプトアウトできる仕組みの提供を義務づけた。主要な発行社向け制御は2026年12月まで、ページ単位の制御は2027年3月までに実装される予定で、管理はSearch Console上で行われる。

英国が与えたのは「止める権利」、フランスが求めているのは「もらう権利」だ。この二つは補完的に見えるが、実務上は緊張関係にある。Digidayが指摘するように、オプトアウトは行使すれば自らAI検索面での露出を失う片道切符でもあり、多くの発行社にとって安全に使えるカードではない。だからこそ、止める権利だけでは足りず、対価の交渉権が要る——APIGの申立ては、そう読める。

日本には、どちらの権利もまだない

翻って日本はどうか。日本新聞協会は2026年4月20日にAI検索サービスに関する声明を公表し、RAGを用いるAI検索でも報道コンテンツの利用には権利者の許諾を得るのが原則だとした上で、国に制度整備の早期実施を求めている。協会は、Googleが通常の検索とAI検索で同じクローラーを使っているため、収集を拒めば通常検索からも消えるという構造的問題も指摘した。これは英CMAが6月に解いた問題そのものだ。

つまり日本は、英国がすでに解いた論点を提起した段階にあり、フランスが行使している隣接権に相当する法制度は持っていない。法的な交渉材料の有無が、そのまま海外プラットフォームとの力関係の差になっている——この構図は今後、報道機関以外のコンテンツ事業者にも波及する可能性があると筆者は見る。オウンドメディアもレシピサイトも比較サイトも、AI要約に飲み込まれる点では同じ立場だからだ。

法を待てない事業者が、今日からできること

制度整備には年単位の時間がかかる。それまでの実務としては、次の三つが現実的だろう。

第一に、AI経由の露出と流入を計測できる状態にしておくこと。本誌が報じたSearch Consoleの生成AIレポート全ユーザー開放は「引用されたこと」までしか見せない設計だが、それでも引用の有無を追う起点にはなる。交渉であれ社内説得であれ、数字がなければ何も始まらない。

第二に、オプトアウトを「使う前提」ではなく「使える状態」にしておくこと。CMAの制御はSearch Console経由で提供される見込みであり、英国向けに実装された仕組みが他国へ広がる可能性はある。その日に慌てないよう、自社ドメインの権限管理と、AI利用可否を誰が判断するかの社内合意を先に作っておきたい。

第三に、クリックされなくても成立する接点を増やすこと。AI要約に答えを持っていかれても、指名検索、メールリスト、コミュニティ、アプリといった経路は残る。フランスの300紙が法廷で争っているのは、まさにこの「検索以外の経路を持たなかった代償」でもある。

法制度の議論を他人事として眺めるか、自社の交渉材料の棚卸しとして読むか。その差が、来年以降のトラフィック構造に効いてくる。

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