ライブ配信から「非リアルタイム音声」を締め出す
TikTokはこの6月、TikTok Liveのルールを更新し、ショッピングライブ配信での「非リアルタイムの音声によるやり取り」を禁止コンテンツに明記した。Social Media TodayやPYMNTSの報道によると、具体的にはAI生成音声、録音の再生、ラジオ型の音声などが対象で、配信者にはリアルタイムの音声または手話による視聴者との直接的なコミュニケーションが求められる。スライドショーやループ映像、商品詳細ページのスクリーン録画を流すだけの配信も非準拠コンテンツに挙げられている。
さらに7月には、こうした違反が販売者の新しい健全性スコア「Account Health Rating」(0〜1,000点)に反映されると報じられた。スコアはキャンペーンへの参加資格やコミッションプログラム、最終的にはアカウントの存続にまで影響する仕組みとされ、ルールは「建前」ではなく実効的な淘汰装置として機能し始めている。
同じ会社が、広告ではAIを全力で推している
興味深いのは、この禁止令がTikTok自身のAI推進とまったく同時に進んでいることだ。HubSpotやWixが"AIスキル"を出品する——TikTok「Agentic Hub」が予告する、管理画面を人が触らない広告運用と、MCPという新たな主戦場で報じたとおり、TikTokは6月30日、AIエージェントに広告運用を開放する「Agentic Hub」を公開した。クリエイティブ生成ツール群「Symphony」では、テキストや画像からのキャンペーン動画生成まで提供している。広告の制作・運用はAIに任せろと言いながら、ライブの売り場ではAIを締め出す。一見矛盾したこの構えは「二正面作戦」と呼ぶべきものだ。
参照点になるのが中国のDouyin(抖音)だ。Sixth Toneの報道によれば、中国ではデジタルアバター関連企業が99万社以上登録され、24時間配信できるAIライバーが一大産業になっている。TikTokは技術的には同じ道を選べたはずだが、少なくとも現時点では選ばなかった。2024年にAIアバターを発表した際には「ブランドに代わって配信できる」ことを売りにしていただけに、方針の転換は明確だ。
線引きの基準は「その場面で何が商品か」
この線引きには一貫した論理があると筆者は見る。広告枠でのAI活用は、制作コストと運用工数を下げる純粋な効率化であり、ユーザー体験を直接には毀損しない。一方、ライブコマースで売られているのは商品そのものだけではなく、「今この人が自分に向かって話している」というライブ感と信頼だ。録音やAI音声の垂れ流し配信は、その中核価値を空洞化させる。実際、ルール更新の背景には、繰り返しのAI音声を一日中流し続ける低品質配信の増加があったとみられている。
つまりTikTokの判断軸は「AIか人間か」ではなく「その場面で何が商品か」だ。効率が商品なら(広告運用)AIを推し、真正性が商品なら(ライブ接客)人間を義務付ける。
日本のライブコマースへの示唆
日本でもTikTok Shopが立ち上がり、ライブコマースへの再挑戦が本格化している。今回のルールが示すのは、「AI音声によるセミ自動配信」や「録画の使い回し」といった配信そのものの省力化は、プラットフォームの規約リスクを直接抱え込む、ということだ。省力化はライブの外側——台本生成、商品説明資料、コメント分析、アーカイブの切り抜き制作——で行い、配信本体は人間が張る。この役割分担が当面の実務的な正解になる。
ただし、この線が恒久的とは限らない。更新されたルールには「画面の50%を超えるアニメーション図像の使用禁止」という規定もあり、裏を返せば小さく表示されるバーチャルキャラクターの扱いには解釈の余地が残る。Douyinで確立したAIライバー経済圏が示すように、「AIだと分かった上で買う」文化が根付けば線引きは動きうる、という見方も成り立つ。マーケターが見るべきは今日の条文ではなく、「ユーザー体験を毀損しないAI活用はどこまでか」というプラットフォームの判断軸そのものだ。