2026年10月12日(月)
SNS

豪政府「アルゴリズムをオフにする権利」法案へ——Instagram責任者が反論で挙げた「エンゲージメント最大50%減」は、ブランドのリーチの内訳そのものだ

オーストラリア政府が9月上旬、利用者が推薦アルゴリズムをオフにして「フォローした相手の投稿だけ」を見られるようにすることをプラットフォームに義務づける法案「My Feed, My Way」を示した。違反時の制裁は最大1億922万豪ドル。これに対しInstagram責任者のAdam Mosseri氏は、時系列フィードに切り替えた際にエンゲージメントが最大50%落ちた経験を挙げて反対した。この50%という数字は、実はブランドのリーチがどこから来ているかの内訳を示している。

WebTech Journal 編集部

編集・執筆

|
|
5分で読める

SNSマーケティングの前提を一行で言うと、「フォロワー数とリーチは別物になった」だ。推薦アルゴリズムがフォロー関係を越えて配信するようになったからこそ、フォロワーの少ないアカウントの投稿が何十万回も見られる。その前提に、法律のほうから手が入ろうとしている。

何が提案されたのか

オーストラリア政府が9月上旬に明らかにした「My Feed, My Way」は、16歳以上の利用者に対し、アルゴリズムによるパーソナライズドフィードを使うか、フォローしているアカウントの投稿だけを見るかを選ばせることをプラットフォームに義務づけるものだ。新規利用者だけでなく既存利用者にも通知を出し、デフォルトのフィードを選択させることが求められる。違反した場合の制裁は最大1億922万豪ドル。執行はeSafetyコミッショナーが担う。法案は起草段階で、対象を絞った協議にかけられている(ABC News、Social Media Today)。

あわせて政府は、アプリやAIチャットボットの依存性を高める設計に対する規制も検討しているとされる。オーストラリアは16歳未満のSNS利用を制限する法制度をすでに動かしており、この国のSNS規制は「提案されたら数年内に形になる」と見ておくべき実績がある。

Mosseri氏の反論は、同時に自白でもある

数日後、Instagram責任者のAdam Mosseri氏が反対の立場を明確にした。アルゴリズムによるランキングがなければInstagramははるかに魅力の薄い体験になり、アプリを通じてオーディエンスに届けているクリエイターに打撃が及ぶ、という主張だ。氏はInstagram自身の経験として、利用者をアルゴリズム推薦から切り替えた際にエンゲージメントが最大50%落ちたことを挙げ、時系列フィードを実際に望んでいるのは「声の大きい少数派」にすぎないと述べた(ABC News)。

ここが本題だ。この50%は、規制への反論として出された数字だが、読み替えるとこうなる——Instagramの利用者が接している体験のおよそ半分は、自分が選んだフォロー関係ではなく、プラットフォームの推薦によって成立している。ブランドアカウントの投稿インプレッションのうち、フォロワー起因とフォロワー外起因の比率を見たことがある担当者なら、この数字に驚かないはずだ。多くのアカウントで、伸びた投稿ほどフォロワー外の比率が高い。

つまり「アルゴリズムをオフにする権利」は、利用者にとってはUIの選択肢の話だが、ブランドにとってはリーチの分母が2つに割れるという話になる。オプトアウトした層に対して、あなたのブランドは「フォローされているかどうか」だけで到達可否が決まる。フォローされていなければ、広告以外の到達手段は原則としてなくなる。

どれくらいの人がオフにするのか

ここは正直に言って、誰にもわからない。Mosseri氏は「声の大きい少数派」と言うが、彼にはそう言うインセンティブがある。一方で、デフォルトの設計が選択結果を大きく左右することは行動経済学の基本であり、法案が「新規・既存の両方に通知して選ばせる」ことを求めている点は重要だ。何もしなければ現状維持になる設計と、能動的に選ばせる設計では、結果が変わる。

また、報道の中には「デフォルトを時系列にできるようにする」という整理と、「利用者に選ばせる」という整理が混在している。最終的な条文が出るまで、デフォルトがどちら側に倒れるかは確定していないと見るべきだ。ここを断定している記事があれば、疑ってかかったほうがいい。

日本のSNS担当者が今できること

日本には、ランキングやフィードの構成そのものを規律する法律はない。2025年に施行された情報流通プラットフォーム対処法は違法・有害情報への対応が主眼で、推薦の設計には踏み込んでいない。だから「明日から日本で同じことが起きる」という話ではない。

それでも、次の3つは今日から始められる。

  1. リーチをフォロワー内/フォロワー外で分けて記録し始める。 InstagramのインサイトもTikTokの分析も、この分解を出せる。3か月分の基準値を持っておけば、環境が変わったときに「何が起きたか」を説明できる。持っていなければ、変化を感知することすらできない。

  2. フォロワー外比率が高いアカウントは、それが戦略なのか事故なのかを言語化する。 推薦頼みのリーチは、規制でも仕様変更でも一夜で消える。数字が良いこと自体は問題ないが、「消えたときに何が残るか」を答えられる状態にしておく。

  3. フォローという関係に、もう一度価値を戻す施策を混ぜる。 メール、LINE、アプリ通知といった、プラットフォームの推薦に依存しない到達経路の比率を上げる。これは規制リスクへの備えである以前に、単純に事業の健全性の話だ。

オーストラリアの法案が通るかどうかより重要なのは、「推薦に乗ることが前提のリーチ」がどれだけ脆いかを、Mosseri氏自身が50%という数字で示してしまったことだ。その数字は、あなたのアカウントの管理画面にも出ている。

関連記事

SNS

TikTokは「フィード内購入」、Metaは「会話で運用」——Advertising Weekで分かれたAIエージェント戦略と、日本の広告主が握るべきもの

Advertising Weekで、TikTokは『Buy Direct』などアプリ内で購買を完結させる機能を、Metaは会話で運用を任せられるビジネスアシスタントを発表した。AIを置く場所の違いと、日本の広告主が導入前に決めるべき『何を任せ、何を握るか』を整理する。

SNS

YouTubeがShortsの「転載チャンネル」のリーチを下げる——Instagram・Facebookに続く方針転換で、日本の短尺動画運用は何を見直すべきか

YouTubeは、他人のクリップをほぼそのまま再投稿するチャンネルのShortsリーチを下げ、オリジナルを優先すると発表した。適用時期や確認方法は未公表だ。Instagram・Facebookの先行措置と並べて短尺動画プラットフォームの方向性を読み解き、切り抜き運用や引用型運用を行う日本の企業が今のうちに点検すべき点を整理する。

SNS

YouTubeショートが「再投稿だけのチャンネル」の配信を絞る——基準も開始日も非公開のまま、切り抜き運用と広告在庫に起きうること

YouTubeはショート動画の推奨システムを更新し、他者の動画を何も加えず再投稿するチャンネルの配信を減らすと発表した。ただし開始時期・数値基準・通知の有無は示されていない。Instagramが4月に進めた同種の施策と並べ、切り抜き運用や企業のSNS運用が今すぐ点検すべきポイントを整理する。