「ChatGPTからの流入が4割減った」。10月中旬、そんな報告が分析担当者の間で一斉に上がった。結論から言えば、少なくともその一部は需要の減少ではなく、計測タグの欠落だった可能性が高い。AI流入をKPIに組み込み始めた組織ほど、この件は他人事ではない。
何が起きたか:確認できている事実
Search Engine Journalのまとめによれば、GPT-6は10月7日に有料プラン、8日にFree/Goユーザーへ展開された。その直後の10月9日ごろから、GA4でChatGPT由来とされるセッションが複数のデータセットで減少している。
Graphiteは、対象サイトでChatGPT経由セッションが22〜57%減ったと報告した。同社のEthan Smith氏は、回答本文中のインラインリンクからutm_source=chatgpt.comが外れ、訪問が「Direct」に分類されていると説明する。AdobeのCedric Huesler氏は約500ページを分析し、10月9〜13日はその前週に比べてChatGPT流入が1日あたり約3.1万件減り、Direct流入が約2.6万件増えたと報告している。検索流入は7%減で、これは他の検索全体の傾向と同程度だという。Profoundの収集では、タグ付きリンクを1件以上含む回答の割合が10月8日の約98%から14日には約66%に落ちた。
Search Engine Landの報道は当初「ドロップしたように見える」と慎重に伝えたが、その後Huesler氏はOpenAIが10月14日にバグだと認めたと投稿し、15日朝から修正の展開が始まったとしている。ただし、OpenAIのリリースノートにはこの件の記載が見当たらないとSEJは指摘しており、公式な確認は第三者経由の情報にとどまる。
「全部が計測バグ」とは言い切れない理由
ここで事実と考察を分けておきたい。LLM Pulseは同期間にChatGPTセッションが約46%減ったと報告しつつ、Direct増加は観測できなかった。Directの母数が大きすぎて、数万件の増加は集計に埋もれるためだ。同社も、失われた流入と「ラベルが外れただけの流入」を集計データからは切り分けられないと認めている。Adobeの分析も4日分のサンプルに基づく早期の知見だ。
さらに、Graphite、LLM Pulse、Profound、Peec AIはいずれもAI検索の計測・SEOを商品にする企業で、Huesler氏のみがAdobe所属だ。ビジネス上の利害を持つ主体の数字が並んでいる点は割り引いて読むべきだろう。Peec AIのTomek Rudzki氏は、回答内にURLが直接表示される割合が約8〜10%から42%に増えたと報告しているが、これは表示リンクの割合であり、クリック数ではない。
筆者の見立てでは、「計測の欠落が主因で、実際の流入減が混在している可能性は排除できない」というのが現時点で言える範囲だ。
日本のマーケターへの示唆:この件が露呈した構造
SEJの過去の報道によれば、GA4は5月にAI Assistantを既定のチャネルグループに追加した。しかしリファラが欠けた訪問はDirectに落ちる。つまりAI流入の「見える化」は、リンクに付くタグ1つに依存していた。特にGraphiteの試算では、モバイルアプリ経由のChatGPT訪問の95%がタグのみに頼っており、日本でもアプリ経由の訪問が多いサイトは同様の影響を受けうる。
実務では次の対応を勧めたい。
- 10月8〜15日にレポート注記を入れる。AI流入の前月比・前年比を経営層に報告する場合、この期間は「計測仕様の変動期間」と明記する。
- ChatGPTとDirectを並べて見る。ChatGPTが減ったページで、Direct、特に新規訪問が増えていないかを確認する。
- リファラ依存をやめ、UTMの有無で数える。Huesler氏は、ChatGPTクリックの多くがリファラなしで届くため、UTMタグで数えることを勧めている。
- AI流入をCVの先行指標にしない。タグ仕様が突然変わりうるチャネルを単独KPIにするのは危うい。指名検索数やDirectのCV率とあわせた複合指標で見る方が安全だ。
なお、修正が入っても失われた期間の帰属は戻らない。Profoundもその点を指摘している。いま必要なのは、特定の数字に一喜一憂することではなく、AI流入の計測がプラットフォーム側の仕様変更ひとつで揺れるという前提で、レポートの設計を組み直すことだろう。
関連して、本誌はAIモードの個人化広告とChatGPT広告の計測強化にも触れてきたが、広告側はUTMを自社で付与できる一方、オーガニックの引用リンクは付与権限がこちらにない。この非対称が、今後のAI流入評価で最大の論点になると考える。