広告は承認されている。入札も下げていない。それなのに先月のインプレッションが2割減り、CTRだけが上がっている——このレポートを前に「クリエイティブ改善の成果です」と書きそうになったら、手を止めたほうがいい。9月7日に公開された1,750億インプレッション規模のデータは、それがあなたの施策の結果ではない可能性を示している。
1,750億インプレッションが示した「逆クロコダイル効果」
Smarter EcommerceのMike Ryan氏がLinkedInで公開したショッピング広告のデータを、Search Engine Roundtableが9月7日に報じた。Barry Schwartz氏がグラフから読み取った数値によれば、2025年半ばから2026年半ばにかけて、ショッピング広告の中央値インプレッションはおよそ185万から140万へ低下し、同時に中央値CTRは1.20%からおよそ1.55%へ上昇している。データ規模は1,750億インプレッション。
SEOの世界では、AI Overviews(AIO)の登場以降、「インプレッションは増えるのにクリックは減る」現象が続いてきた。グラフの形から「クロコダイル効果」、あるいは「グレート・デカップリング」と呼ばれてきたものだ。ショッピング広告で起きているのは、その正反対である。
Ryan氏はこの理由について、あくまで自身の仮説と断ったうえでこう書いている。Googleは各クエリの予測CTRを見て、収益を守るために「クリックされにくいクエリ」に優先的にAIOを出しているのではないか。だとすればCTRの上昇は、分母(インプレッション)が縮んだことと、クリックされやすいクエリだけが残る選別の、二つの効果の合成ということになる。
同じ週、完全一致がAI Modeに出はじめた
この観測と並べて読むべき発表が、3日前にあった。
9月4日、GoogleのAds LiaisonであるGinny Marvin氏は、通常の検索キャンペーンで完全一致・フレーズ一致のキーワードがAI Modeにテキスト広告を配信できるようになったことを認め、「最近始まった小規模な実験」と説明している。最初に気づいたAnthony Higman氏がLinkedInで指摘したとおり、それまでAI面に出る手段はAI Max、P-MAX、あるいは部分一致+スマート入札に限られていた。
Marvin氏はコメントで条件も添えている。完全一致とフレーズ一致がAI Modeで配信対象になるのは「明示的かつ直接的なユーザー意図がある場合に限られる」。複雑な会話的意図はAI MaxとP-MAXが拾う、という役割分担だ。
本誌が9月7日に報じた9月、Google広告から「言語」の設定が消える、9月6日に報じた「審査は通っているのに出ない」——Google広告の制限付き配信と重ねると、輪郭が見えてくる。
インプレッションが減る理由は、いま3つある
整理すると、広告主が「表示回数が減った」と感じる原因は、少なくとも三系統が同時に走っている。
- SERP面の置換:AIOがクエリごとに出し分けられ、従来の広告枠そのものが減る
- 配信側の制限:制限付き配信のように、承認済み広告でも露出が絞られる
- AI面の配信条件が非公開:どのキーワードがAI Modeに出るかは「明示的かつ直接的な意図」という定性的な基準で決まり、レポート上で区別できない
ここから先は筆者の考察になるが、この三つが同時に効いている以上、インプレッション数とインプレッションシェアを前年同月比で並べる運用レポートは、もう意味のある比較になっていない。数字が減っていても施策の失敗とは限らず、増えていても成功とは限らない。
そして厄介なのは、CTRが「勝手に上がる」ことだ。分母が縮んで選別が効けば、何もしなくてもCTRは改善する。この上昇を広告文の改善成果として報告してしまうと、翌月以降の意思決定が丸ごと歪む。
日本の運用担当者が今週やっておくこと
- 月次レポートのKPI定義を書き換える。インプレッション・インプレッションシェア・CTRを「前月比で評価する指標」から外し、コンバージョン数とCPA、ROASを主指標に据え直す
- CTR上昇の要因を分解する。広告文を変えていない期間にCTRが上がっているなら、それは構造要因である可能性が高い。変更履歴と突き合わせて記録に残しておく
- 完全一致キャンペーンの成果を再確認する。AI Modeへの配信が始まっているなら、これまで「AI面はP-MAXの領分」として切り分けていた前提が崩れる。クエリレポートで見慣れない会話型の検索語句が増えていないか確認する
慎重に見るべき点
Ryan氏の「Googleが予測CTRでAIOを出し分けている」という説明は仮説であり、Google側の確認は取れていない。単純に、AIOが表示された分だけ広告枠が減り、その結果としてCTRの分母が縮んだだけ、という素直な解釈も成り立つ。またこのデータは欧米市場のアカウントが中心とみられ、日本のショッピング広告に同じ比率で当てはまる保証はない。
それでも、方向は一致している。Googleは「どこに出るか」を広告主に選ばせない方向へ進んでいる。Marvin氏の言葉を借りれば、AI面への露出はキーワードで買うものではなく、意図の質で割り当てられるものになりつつある。指標の作り直しは、その前提の上でしか始まらない。