9月の最初の8日間で、GA4のデータがゼロになり、Googleビジネスプロフィールの指標が空白になり、Search Consoleのリンクレポートが1ヶ月前で止まった。本誌はこれを「Googleの無料計測レイヤーが3つ同時に止まった」として報じたばかりだ。
その2日後の9月10日、Googleは計測プロダクトの大型アップデートを発表した。中身を一言で言えば、「もっと多くのデータをGoogleに預けてください」である。タイミングの妙も含めて、この発表は読む価値がある。
発表された3つの変更(事実)
Googleの公式ブログで、広告アナリティクス・インサイト・計測担当VPのNipoon Malhotra氏が発表した内容は、大きく3点に整理できる。
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Data ManagerがGoogle広告の外へ出る。 これまでGoogle広告の中の機能だったData Managerが、Google アナリティクス(GA)とDisplay & Video 360(DV360)に直接統合される。同時に、拡張コンバージョンもGAとDV360で利用可能になる。Googleの提示する数字では、オフラインデータやアプリデータをData Managerに接続した広告主は増分ROASが平均26%向上(2025年4月〜2026年4月、コンバージョン値に入札する検索キャンペーン)、拡張コンバージョンの利用で検索コンバージョンが平均11%増(2026年1月1日〜14日の社内データ)としている。
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Data Manager APIが「ユニバーサル」になる。 IAB Tech Labの Event and Conversions API(ECAPI)標準に準拠し、Google以外の主要広告プラットフォームも含めて、オーディエンスと計測を1つの設定で接続・管理・アクティベートできるようにする。データ不備を事前に検知する診断機能も内蔵された。
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「Data Strength Uplift Metric」がGoogle広告に追加される。 自社のファーストパーティデータ設定によって「追加で回収できたコンバージョン数」を算出する新指標だ。Google tag gatewayを導入した広告主は平均14%のコンバージョン増、Demand Genキャンペーンでは20%超の増加が観測されたとしている。
あわせてMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)のMeridianも更新された。データ品質の監査やモデル構築をリアルタイムで支援するエージェント機能が入り、ブランド指名検索ボリュームなどのブランドシグナルをモデルに直接組み込めるようになった。地理実験ライブラリのMeridian GeoXは、ベータを終えてグローバルで一般提供になっている。
「Googleが自分でモノサシも作る」という構図
ここからは考察である。
この発表で最も注目すべきは、派手な26%や14%という数値ではない。Data Strength Uplift Metricという指標そのものだ。
この指標は「あなたがGoogleにデータを渡したことで、何件のコンバージョンが余分に取れたか」を示す。つまり、Googleにデータを預ける行為のROIを、Googleが計算して管理画面に表示する。運用者がこの数字を上司に見せて予算を通す、という運用が容易に想像できる。
これは巧みな設計だ。同時に、評価の独立性という観点では危うさもある。データ提供の価値を、データを受け取る側が算定している。反実仮想(渡さなかった場合)の推定方法が外部に開示されない限り、この数字を第三者が検証する手段はない。
同じ構図はMeridianにも当てはまる。MeridianはオープンソースのMMMであり、モデルの中身を検証できるという点でブラックボックスではない。GeoXの一般提供によって、地理実験による因果の裏取りが誰でもできるようになったのは、率直に評価すべき前進である。だがそこにエージェント機能が入り、「データ品質の監査」「エラーの解消」「モデル構築のガイド」までAIが担うようになると、実務上はGoogleの推奨どおりにモデルが組まれる方向へ収束していく。オープンソースであることと、実際に多様な使われ方をすることは、別の話だ。
ECAPI準拠は、むしろ広告主に有利な変化
一方で、無条件に歓迎してよい変更もある。Data Manager APIのECAPI準拠がそれだ。
サーバーサイド計測の実装は、これまでプラットフォームごとに個別対応が必要だった。Meta向け、Google向け、その他向けとコネクタを作り分ける工数は、日本の事業会社では珍しくない開発コストになっている。IAB Tech Labの業界標準に寄せるということは、その工数が下がる方向を意味する。ロックインを強める動きの中で、この一点だけは相互運用性を高めている。
Googleにとっても合理的だ。サーバーサイド計測の実装コストが高いままだと、そもそもデータが届かない。標準化して敷居を下げたほうが、結果的に入ってくるシグナルの総量は増える。利害が一致している珍しい領域である。
冒頭の話に戻る——預ける前に、前提を点検する
ここで9月初旬の障害の話に戻りたい。
GA4のデータが数日ゼロになり、Search Consoleのリンクレポートが1ヶ月更新されなかった事実は、Googleの計測レイヤーが無謬ではないことを示した。その直後に「さらに多くのデータをここに集約しませんか」という提案が来ている。提案の中身が良いか悪いかとは別に、この順番は覚えておくべきだ。
実務者への示唆は3つある。
- Data Strength Uplift Metricは「参考値」として扱う。 ゼロにする必要はない。だが増分の主張は、可能な範囲で自前の実験(GeoXを含む地理実験、あるいは期間を区切ったホールドアウト)と突き合わせる。GeoXが一般提供になった今、この検証コストは以前より確実に下がっている。
- ECAPI準拠は前向きに検討する。 複数プラットフォームにサーバーサイドでコンバージョンを送っている、あるいはこれから送る予定があるなら、標準準拠のメリットは実装工数として直接返ってくる。
- GAとDV360へのData Manager統合は、社内のデータガバナンスの再確認を伴う。 これまでGoogle広告の管理者しか触れなかった顧客データの取り扱いが、アナリティクス側やDSP側にも広がる。誰がどのデータを接続できるのか、権限設計を見直すタイミングとして適切だ。日本の個人情報保護法の観点でも、同意取得の範囲と実際の連携先が一致しているかは、統合前に確認しておきたい。
計測を強くするという方向自体は正しい。問題は、強くなった計測の目盛りを誰が刻んでいるかである。