Google広告のData Managerが、11月16日から顧客データのSHA-256ハッシュ化を必須としなくなる。その代わり、暗号化したデータをGoogleが外部から隔離された環境内で復号・正規化して照合する。CRM連携やオフラインCV取り込みをしている広告主にとって、「ハッシュ化して渡せば安全」という長年の前提が変わる話だ。
何が変わるのか:公式文書ではなく「メール」が出どころ
PPC Landが全文を紹介したData Manager利用者宛てのメールによると、11月16日以降、Googleはハッシュ化された顧客データを必須とせず、暗号化されたデータをハードウェアで隔離された信頼実行環境(TEE)内で復号・正規化・照合し、ターゲティングと計測に使う。対象として名指しされているのはGoogle広告のカスタマーマッチと拡張コンバージョンで、CRM連携、クラウドストレージ取り込み、ファイルアップロード、Data Manager API経由のオフラインデータが含まれる。理由として、パフォーマンス向上、プライバシー強化技術の活用、ハッシュ化前の整形ミスによる照合エラーの減少が挙げられているが、照合率の数字は示されていない。
注意したいのは情報の性質だ。このメールは日付がなく、Anthony Higman氏が10月18日にLinkedInへ転載したもの(Search Engine Roundtableの10月22日付まとめも言及)で、公式ヘルプではない。PPC Landも、表示されている文面が完全とは限らないとしている。
背景:データの出入り口は、すでにData Managerへ寄せられている
PPC Landによれば、この変更は突然ではない。TEEを使う機密マッチングは2024年9月に始まり、Data Manager APIの公開(2025年12月9日)時点で任意の暗号化も提供されていた。2026年4月1日にはGoogle Ads API経由のカスタマーマッチ更新が止まり、6月15日からはオフラインコンバージョンの新規取り込みもGoogle Ads API経由ではできなくなって、いずれもData Manager APIへ移っている。9月にはカスタマーマッチがハッシュ化されていないIPアドレスとタイムスタンプを受け付け始めた(EEA・英国・スイスでは照合不可)。つまり、入口の一本化が先に進み、今回はその中身のルール変更にあたる。
考察:「ハッシュ化=安全」から「TEEを信じるか」へ
ここからは筆者の考察になる。米FTCは2024年7月に、ハッシュ化しても個人は特定・追跡できるため匿名とは言えないと明確に警告している。ハッシュ化は、同じメールアドレスから同じ文字列が生まれるため、照合に使える性質がそのまま追跡にも使える。その意味で、今回の変更は「建前だった保護」を外し、保護の根拠をTEEとその検証(アテステーション)に置き直すものと読める。ただしこの点は、PPC Landも指摘するとおり、メールの文面からの推論であり、Googleが明言した内容ではない。
メールが答えていない点も多い。既存のハッシュ化済みアップロードは同じ照合率で動き続けるのか。新方式は任意なのか。API以外の経路で鍵を持つのは誰か。復号後のデータは保持・記録されるのか。顧客データ利用規約は変わるのか。いずれも現時点では不明だ。
反論:現場にとっては歓迎すべき改善でもある
一方で、実務者の目線では前向きに受け取れる面もある。ハッシュ化前の整形(小文字化、空白除去、電話番号の形式統一)の揺れは、照合率が伸びない典型的な原因だった。Google側で正規化されれば、ベンダーやCRMごとの実装差に悩まされる場面は減る可能性がある。
日本の運用者が11月16日までにやること
日本の法令上の扱いは個別事情で変わるため、以下は筆者の整理であり、最終判断は法務・専門家に確認してほしい。
- 経路の棚卸し:顧客データをGoogleに渡している経路(CRM連携、MA/CDPの連携機能、CSV、API)を洗い出す
- ベースラインの取得:現状の照合率とカスタマーマッチのリストサイズを、変更前に記録して比較できるようにする
- ベンダーへの確認:利用中のCDP・MAベンダーが11月16日以降どう動くか、既存のハッシュ化済み連携が継続するかを問い合わせる
- 同意・プライバシーポリシーの確認:「ハッシュ化しているから問題ない」と整理していた場合、個人情報保護法上の第三者提供や利用目的の説明、同意取得の記載を見直す
- 段階導入:新方式を全面採用する前に、一部のリストで効果と挙動を確かめる
計測の観点では、ChatGPTのUTM欠落問題で見たように、プラットフォーム側の仕様変更は、予告なく自社の数字を動かす。11月16日の前後には、計測メモ(アノテーション)を残しておきたい。