Googleが10月15日、検索とGeminiアプリをまたいで使える共有カート「Universal Cart」を米国で開始した。同じ時期、Metaは買い物の実行まで担うAIエージェント「Muse」を展開している。どちらも「AIの中で買い物が完結する」方向だが、設計思想は対照的だ。本稿は公式発表を軸に、EC事業者への含意を整理する。
事実:Googleは「人が持つカート」を作った
Googleの公式ブログによると、Universal Cartは検索のAIモードやGeminiアプリで見つけた商品を複数の小売店にまたがって保存でき、値下げや再入荷の通知、プロモコードの提示、Google Walletの情報を使ったカード特典の考慮ができる。商品データは600億件超のShopping Graphが支える。
購入は、対応店舗ならGoogle Payで数タップで完了でき、チェックアウトは「Universal Commerce Protocol(UCP)」を基盤とする。Nike、Sephora、Target、Ulta Beauty、Walmart、Wayfair、多くのShopify加盟店が対象として挙げられた。店舗側は引き続き販売者であり、注文確認とサポートを担う。提供は米国で、Search Engine Landの報道でも国際展開の時期は示されていない。
事実:Metaは「AIが代わりに買う」道を選んだ
Metaの発表では、Museは9月上旬に登場し、Shopifyの商品カタログ全体にアクセスできる状態で始まった。Shop PayとPayPalの対応を追加中で、Walmart、Best Buy、Sephora、Wayfairなども接続先に挙がる。
Search Engine Journalの解説によれば、Museにはコネクタ経由に加え、専用ブラウザで任意のサイトを閲覧する経路もある。ただし同記事は、MetaもOpenAIも(類似のエージェント「Dots」を含め)ユーザーエージェントを公開しておらず、robots.txtでは制御しにくい点を指摘している。
考察:二つの経路で、見られる場所が違う
ここからは筆者の見立てだ。Universal Cartは商品フィード、価格、在庫、UCP対応といった「構造化された供給側の準備」が勝負を分ける。一方、Museのブラウザ経路は、SEJの解説どおりなら画面上のテキストやボタン、フォームといった「表の作り」が問われる。つまりECは、フィード品質とフロントのアクセシビリティを同時に求められる可能性がある。
反論もある。どちらもまだ初期段階で、エージェント経由の購入がどれほどの規模になるかを示す公開データはない。Museの週間利用者300万人超という数字も、SEJが紹介する報道ベースの内部データであり、購入数ではない。過大評価は禁物だ。
また計測面の懸念は現実的だ。AI内で完結した注文は、Googleアナリティクスに出てこず、プラットフォーム側の注文記録にだけ残る可能性があるとSEJは指摘する。
日本のEC担当者が今確認すべき3点
日本での提供時期は、確認できた範囲では両社とも示していない。ただ米国の機能が日本に来るまでの期間を考えれば、準備は先行できる。
- 商品フィードの鮮度と価格・在庫の正確さ:Merchant Centerの品質をまず点検する。
- 決済・カート周りのHTML:ボタン名、フォームのラベル、在庫表示を、構造化データだけでなく画面上の文字でも明示する。
- 計測設計:AI経由の注文を注文管理システム側で識別できるか、流入元の記録方法を決めておく。
カートとエージェントのどちらが主流になるかは、まだ誰にも分からない。分からないからこそ、両方に効く土台——正確なデータと読み取りやすい画面——への投資が、最も後悔の少ない一手になる。