2026年9月30日(水)
業界動向

Google、EUのデータ共有命令に控訴——2027年1月に検索データが競合AIへ渡る世界で、マーケターの「Google前提」は保てるか

GoogleがEUのDMAに基づく検索データ共有とAndroid開放の命令に控訴した。共有は2027年1月開始の予定で、控訴だけでは期限は止まらないと報じられている。確認できた事実と両者の主張を整理し、入口が分散する未来で日本のマーケターが見直すべきKPI設計と流入計測を考察する。

WebTech Journal 編集部

編集・執筆

|
|
3分で読める

Googleは9月29日、EUのデジタル市場法(DMA)に基づく2件の命令に対し、控訴に踏み切った。争点は、検索データの競合との共有と、Android上での他社AIアシスタントへの機能開放だ。Euronewsによれば、欧州委員会は7月にこれらの措置を決定している。

事実:何が命じられ、Googleは何を争っているのか

EuronewsとSearch Engine Roundtableの報道を突き合わせると、骨子は次のとおりだ。Googleは2027年1月から、匿名化した検索データをライバルの検索エンジンや競合AIアシスタントに共有する必要がある。Androidについても、競合AIアシスタントが自社サービスと同等の機能にアクセスできるようにする変更が2027年中に求められている(期限の月については報道により表記が分かれるため、ここでは年のみ記す)。

Googleは「十分な匿名化なしに人々の検索履歴を共有させられる」ことを問題視している。Euronewsが伝えるGoogle幹部の主張は、検索が医療の不安や人間関係など最も個人的な質問に使われており、適切な保護なしの共有は不可逆的なプライバシー侵害を招くというものだ。一方、欧州委員会は、匿名化とセキュリティ審査を組み込んでおり、競争条件を是正する措置だとしている。Euronewsは、Googleが7月に別件で約8億9,000万ユーロの制裁金を科されていたことにも触れている。

考察:これは「EUの話」で終わらない

以下は筆者の分析だ。まず、控訴しても命令が自動的に止まるわけではない、という点が重要だ。Tech Timesは、裁判所の暫定的な停止判断がない限り期限は動かないと解説している。控訴は交渉と時間稼ぎの意味合いが強い可能性がある。

日本のマーケターにとっての含意は二つある。第一に、検索データを得た競合の検索・AIサービスの品質が上がれば、検索流入の入口がGoogle一強から分散していく余地が生まれる。すでにAI Modeでは外部クリック率の低下を示す実験が出ており、入口の多様化は「Googleだけを見ていれば良い」前提をさらに弱める。第二に、検索クエリという極めてセンシティブなデータの取り扱いをめぐる議論は、日本の個人情報保護法改正の論点と同じ「行動データの規律」の系譜にある。

反対側の視点

Googleの主張にも一理ある。匿名化が不十分なまま検索履歴が外部に渡るリスクは、規制当局の側も認めて対策を織り込んでいる領域だ。データの共有が実際に競争を促すのか、それとも一部の大手AI企業に有利に働くだけなのかは、2027年の運用開始後でなければ判断できない。

実務者が今やっておくこと

  1. 流入チャネルの棚卸し:Google検索、AI検索、その他のAIアシスタント経由の流入をGA4で分けて見られる状態にする
  2. 「Google前提」のKPI設計を見直す:順位やGoogle経由セッションだけに依存した目標は、入口が分散したときに評価軸が壊れる
  3. EUの動きを先行指標として追う:DMAの運用結果は、日本を含む各国のプラットフォーム規制の議論に参照されやすい(これは筆者の見立て)

2027年1月まで残り約3か月。控訴の行方は、検索という産業の構造を左右する。

関連記事

業界動向

AI Modeは外部クリックを18.8ポイント奪い、満足度も下げた——実験・訴訟資料・Chartbeatの3データが示す「検索流入の前提」の崩れ方

AI Modeで外部クリック率が18.8ポイント低下したという実験、Bingチャットで最大9割超のクリック率低下を示す訴訟資料、Google検索流入が前年比40.2%減というChartbeat調査。性質の異なる3つのデータを層ごとに整理し、証明されたことと未検証のことを切り分けたうえで、日本の実務者が自社データで確かめる3点を示す。

業界動向

"闇名簿"問題が動かした個人情報保護法改正——Cookie・広告IDに新たな規律、マーケターが備えるべき3論点

2026年4月に閣議決定された個人情報保護法改正案が国会審議を経て動き出している。背景にあるのは違法な"闇名簿"の流通問題だ。Cookieや広告IDが新たに「連絡可能個人関連情報」として規律の対象になり、課徴金制度も導入される。施行は最短でも2028年までだが、広告代理店・計測ツールとの契約点検は今から始めるべき理由を整理する。

業界動向

「広告オークションを回すこと自体が編集行為」——フランクフルト地裁がMetaのホスティング免責を崩し、違反1件25万ユーロを課した判決を読む

9月16日、フランクフルト地裁がMetaのなりすまし広告をめぐる訴訟で、広告オークションの運営自体が編集的な統制行為にあたると判断し、DSAのホスティング免責を否定した。この論理はGoogle Ads、Amazon Ads、TikTok、Microsoft Advertisingにもそのまま当てはまる。判決の中身と、削除手続だけを課した日本の情プラ法との決定的な差、そして日本のマーケターが今週から記録しておくべき3点を整理する。