Googleは9月29日、EUのデジタル市場法(DMA)に基づく2件の命令に対し、控訴に踏み切った。争点は、検索データの競合との共有と、Android上での他社AIアシスタントへの機能開放だ。Euronewsによれば、欧州委員会は7月にこれらの措置を決定している。
事実:何が命じられ、Googleは何を争っているのか
EuronewsとSearch Engine Roundtableの報道を突き合わせると、骨子は次のとおりだ。Googleは2027年1月から、匿名化した検索データをライバルの検索エンジンや競合AIアシスタントに共有する必要がある。Androidについても、競合AIアシスタントが自社サービスと同等の機能にアクセスできるようにする変更が2027年中に求められている(期限の月については報道により表記が分かれるため、ここでは年のみ記す)。
Googleは「十分な匿名化なしに人々の検索履歴を共有させられる」ことを問題視している。Euronewsが伝えるGoogle幹部の主張は、検索が医療の不安や人間関係など最も個人的な質問に使われており、適切な保護なしの共有は不可逆的なプライバシー侵害を招くというものだ。一方、欧州委員会は、匿名化とセキュリティ審査を組み込んでおり、競争条件を是正する措置だとしている。Euronewsは、Googleが7月に別件で約8億9,000万ユーロの制裁金を科されていたことにも触れている。
考察:これは「EUの話」で終わらない
以下は筆者の分析だ。まず、控訴しても命令が自動的に止まるわけではない、という点が重要だ。Tech Timesは、裁判所の暫定的な停止判断がない限り期限は動かないと解説している。控訴は交渉と時間稼ぎの意味合いが強い可能性がある。
日本のマーケターにとっての含意は二つある。第一に、検索データを得た競合の検索・AIサービスの品質が上がれば、検索流入の入口がGoogle一強から分散していく余地が生まれる。すでにAI Modeでは外部クリック率の低下を示す実験が出ており、入口の多様化は「Googleだけを見ていれば良い」前提をさらに弱める。第二に、検索クエリという極めてセンシティブなデータの取り扱いをめぐる議論は、日本の個人情報保護法改正の論点と同じ「行動データの規律」の系譜にある。
反対側の視点
Googleの主張にも一理ある。匿名化が不十分なまま検索履歴が外部に渡るリスクは、規制当局の側も認めて対策を織り込んでいる領域だ。データの共有が実際に競争を促すのか、それとも一部の大手AI企業に有利に働くだけなのかは、2027年の運用開始後でなければ判断できない。
実務者が今やっておくこと
- 流入チャネルの棚卸し:Google検索、AI検索、その他のAIアシスタント経由の流入をGA4で分けて見られる状態にする
- 「Google前提」のKPI設計を見直す:順位やGoogle経由セッションだけに依存した目標は、入口が分散したときに評価軸が壊れる
- EUの動きを先行指標として追う:DMAの運用結果は、日本を含む各国のプラットフォーム規制の議論に参照されやすい(これは筆者の見立て)
2027年1月まで残り約3か月。控訴の行方は、検索という産業の構造を左右する。