順位を測るという行為に、値札がついた
長いあいだ、Googleの検索結果ページには「答え」がそのまま書かれていた。1位のリンクの裏側には1位のサイトのURLがあり、HTMLを読めば誰でも順位表を作れた。順位計測ツールも、社内の簡易スクリプトも、代理店が毎月納品する順位レポートも、この前提の上に建っている。
8月26日、その前提が外れた。
何が起きたのか
Googleは同日、検索結果内のリンクを google.com/goto 経由の転送に書き換える措置を全面展開していることを認めた。遷移先はURLそのものではなく、エンコードされた文字列として埋め込まれる。Search Engine Landの取材に対するGoogleの説明はこうだ——「私たちは進化する不正利用に対して技術的な措置を講じてきた長い歴史があり、サービスとユーザーを守るために定期的に対策を取っている」。
この声明が名指ししたのは「不正利用(abuse)」であって、スクレイピングでも順位計測ツールでもAI企業でもない。展開の時期も対象地域も、技術的な詳細も示されていない。
観測されている挙動はこうだ。書き換えられたリンクは、クリック時に302で本来の遷移先へ転送される。302は一時的な転送を意味するので、クローラに対して「このラッパーがインデックス上のURLを置き換えるわけではない」と伝わる。つまり、SEO上の評価が転送先に移るという話ではない。ここは安心してよい。
4か月かけて、静かに100%になった
この挙動が最初に公開の場で報告されたのは6月23日、Alex Greenland氏によるXへの投稿だった。7月2日にはBrodie Clark氏が、広告と自然検索の双方で同じパターンを確認したと書いている。ところがSearch Engine RoundtableのBarry Schwartz氏は同日「再現できない」と返答し、7月8日に記事を公開した時点でも「この挙動に気づいた人を3人しか特定できていない」と書いていた。
見えている人と見えていない人が並存する——バケット単位の段階展開に特徴的な光景である。
順位計測ツールNozzleの創業者Derek Perkins氏は8月26日、約4か月分のテスト状況をまとめたチャートを公開し、「複数の住宅用IPプロバイダ経由でほぼ100%の展開を確認している」と報告した。同社はそれまで、転送リンクだけが返ってくる検索結果ページを破棄して再取得していた。影響を受ける割合が運用上無視できる水準だったからだ。8月の数字は、その前提を壊した。
HEADは通らない。5ページ分の順位に500〜1,000リクエスト
回避策はすぐに提案され、すぐに壁にぶつかった。
Mic King氏はHEADリクエストで足りるのではないかと問うた。HEADはレスポンスボディを取得せずヘッダだけを読むので、転送先を安価に得られるはずだった。Perkins氏の答えは「GoogleはHEADを通さない」。
残るのはGETで転送のところまで進めて止める方法だが、こちらは量が問題になる。同氏によれば、5ページ分の順位のリンクをすべて解決するのに500〜1,000リクエストを要する。律速するのは帯域でもストレージでもなく、レート制限である。
Dominic Woodman氏は「転送が固定なら、大手はルックアップテーブルを一度作って使い回せるのではないか」と別方向から問うたが、Perkins氏は1つの検索結果ページに数百のリンクがある以上、Googleがそれを容易にするとは考えにくいと答えている。
誰が損をするのか
ここからは筆者の見立てである。
このコスト増を吸収できるのは、プロキシとレート制限の運用に投資できる大手ツールベンダーだけだろう。一方で、社内のスプレッドシートに順位を流し込んでいる内製スクリプト、低価格の小規模ツール、代理店が独自に組んだ簡易クローラは、精度か更新頻度のどちらかを諦めることになる。順位計測は「安いから毎日回せる」処理だった。単価が上がれば、頻度かキーワード数のどちらかが削られる。
もう一段考えると、影響はSEOツールにとどまらない。生成AIの検索面での引用状況を測ろうとする「AI可視性」系のツールも、Googleの結果ページを読む限りは同じ壁の前に立つ。Googleの声明が「不正利用」としか言わなかったことの意味は、おそらくそこにある——順位計測とAIによる収集を、Googleは技術的に区別していない。区別しないまま、両方に同じコストを課している。
そしてもう一点。転送の解決がサーバー側で発生するということは、計測している側の挙動がGoogleのログに記録されるということでもある。ラッパーはリンクであると同時に、自動化されたクライアントを検出する面としても機能しうる。計測する側が、計測される側になった。
わかっていないこと
正確を期すために書いておく。この転送はGoogleのドメイン内で完結するため、サイト側が受け取る参照元(リファラー)は従来どおりGoogleに解決されると考えられている。ただし、この追加のホップが参照元データに実際どう影響するかを実測した報告は、本稿執筆時点で公開されていない。GA4やSearch Consoleの数値が変わったという確認された事実は、現時点で存在しない。
「計測が壊れた」と言い切る記事があれば、それは事実ではなく推測である。当誌も推測はするが、事実としては書かない。
日本の現場で、今週やること
- 順位レポートを納品物にしている場合、更新頻度とキーワード数のSLAを見直す。 値上げか間引きかの判断を、ツール側から通知が来る前にしておく。計測コストの構造が変わった以上、「毎日・全キーワード」は当たり前ではなくなる。
- 内製の順位取得スクリプトを棚卸しする。 HTMLから遷移先URLを直接パースしている処理は、遅かれ早かれ空を返す。まず「壊れたときに気づける」監視を入れる。
- 順位以外の指標に重心を移す。 Search Consoleのクリック数と表示回数は、Googleが直接返す一次データである。GTMスニペットの仕様変化についての報道で触れたとおり、計測基盤そのものが動いている時期に、外部ツール依存の指標だけで意思決定するのは危うい。
- クライアントへの説明を先回りする。 来月「順位データの粒度が落ちました」と伝える前に、なぜそうなるのかを自分の言葉で説明できるようにしておく。AI Overviewの既定展開と重なると、順位という指標そのものの意味が問われる局面になる。
順位は、測るのが安かったから重要な指標でいられたのかもしれない。測るのが高くなった今、その問いを一度置いておきたい。