2026年11月7日(土)
業界動向

偽の製品を、AIは2時間で推薦した——中国が先に作ったGEOの「測り方と契約」の標準から、日本のマーケターが借りるべき4つの作法

中国CCTVの番組が、存在しない商品をAIに推薦させるGEO業者の手口を暴き、9月には5部構成のGEO団体標準が公開された。標準が具体化したのは禁止事項より「測定」と「契約」だった。事実と筆者の考察を分け、異論も示した上で、日本の事業者がGEO外注の契約と計測で今すぐ確認すべき点を整理する。

WebTech Journal 編集部

編集・執筆

|
|
4分で読める

「存在しないスマートバンドを、AIは2時間で推薦し始めた」。2026年3月15日、中国CCTVの消費者権益保護番組「3・15晩会」が暴いたGEO業者の実験は、AI検索の足元の脆さを示した。そして9月、この騒動は業界標準という形で結実している。日本のマーケターにとっては、対岸の話では済まない。

事実:何が起き、何が作られたか

Sixth Toneによれば、調査担当者はGEOシステムを購入し、実在しない「Apollo-9」というスマートウォッチを捏造した。ソフトで作った十数本の宣伝記事を公開すると、2時間以内に大手AIモデルが偽記事を引用して商品を推薦。さらに3日間で11本を追加した結果、少なくとも2つの主要モデルが健康リストバンドの推薦上位に挙げたという。GEOサービスはTaobaoやJD.comで、3か月契約3,600元(約520ドル)から3万2,800元(約4,765ドル)で売られていた。

その後の流れはSearch Engine Journalの解説(Marcus Pentzek氏、10月21日)に詳しい。9月9〜14日、中国商務広告協会のAIマーケティング応用工作委員会が、5部構成の団体標準(T/CAACCHINA 001〜005—2026)を公開した。法律ではなく任意の標準である。主な内容は次のとおり。

  • 事業者評価:A〜Dの格付けに加え、ブラックハットGEOに関与した事業者は不合格とする「一票否決」
  • 料金・測定:固定報酬は混合契約の30%以上、報告する水準ごとに最低30回の試行
  • 信頼できるコーパス:医療・金融など規制分野では情報源基準を厳格化
  • 運用・安全:監査証跡、禁止手法、約束できない成果の付属書、誤情報の訂正は72時間以内に着手

法律事務所GALAの解説は、広告法や不正競争防止法など既存法が適用され得ると整理する。同記事は、AI特有の違反を想定した不正競争防止法の改正案にも触れているが、具体的な執行は報告されていない。

考察:測り方と契約が先に標準化された

ここからは筆者の見方である。この標準で興味深いのは、禁止事項より「測定」と「契約」の規定が具体的な点だ。AIの回答は同じ質問でも毎回変わる。1問5回の試行では誤差が大きく、30回で初めて実用的な幅に収まる、という設計は、直近のGEO施策の効果を数字で見た記事で触れた「流入は誤差」論争にも通じる。測定の作法が定まらない限り、GEOの成果報告は水掛け論になりやすい。

日本の状況はどうか。筆者が確認した範囲では、日本にGEO事業者向けの同種の業界標準は見当たらない。ただしPentzek氏が指摘するとおり、偽商品を使った手法は中国のAIに限らず、西側のモデルでも通用する可能性がある。日本語のAI検索で同じ手口が通じるかは検証されておらず、通じないと言える根拠もない。

異論:この標準を過大評価しない

Pentzek氏自身が懐疑的な点も押さえておきたい。標準は規制対象の業界自身が主に起草しており、30回ルールの根拠も同委員会の報告に依拠する。任意である以上、強制力はない。一部は既存のSEO実務の焼き直しで、中国のAIエンジン向けに作られている。「規制」というより、業界が自らに引いた線と見るのが妥当だろう。

日本のマーケターが今日できること

  • GEO会社との契約書を開く:「AIに必ず表示する」型の約束や、成果連動のみの報酬がないか確認する。
  • AI可視性は「幅」で報告する:同一質問を繰り返し測り、平均だけでなくばらつきを併記するよう依頼する。
  • 自社ブランドの誤情報を点検する:主要AIに自社名で質問し、誤りの記録と訂正手順(公式情報の整備、各社への報告)を決めておく。
  • 外注先の手法を聞く:大量の自社関連記事の量産や、実在しない媒体への配信が含まれていないかを確認する。

中国で規制が先に動いたのは、「AIの答えは操作できる」という事実が全国放送で可視化されたからだ。日本で同じ可視化が起きてからでは遅い。契約と測定の作法は、いま整えておく価値がある。

関連記事

業界動向

広告の「AIで作成」ラベルはもう始まっている——GoogleのAI開示機能とEU AI法の12月期限から、日本の広告運用者が点検すべきこと

Googleは7月、検索・YouTube・Discoverの広告に「この広告の作り方」パネルを導入し、AI作成・編集広告の開示を広告主の運用に組み込んだ。背景にはEU AI法の透明性義務(8月2日適用、一部は12月まで猶予)がある。日本の広告主に直ちに表示義務が生じるかは確認できないが、ラベル設定の実務と、確認すべき3点を整理する。

業界動向

Google検索の売上成長は19%→17%→12%に減速——「AIモードは稼ぎが低い」と認めた決算から読む、SEOと広告の次の前提

AlphabetのQ3決算で、検索・その他の売上は633.5億ドル(前年比+12%)と、前期比ほぼ横ばいだった。クエリ成長は5年で最高なのに、AIモードの収益化が低いことが成長を押し下げたとGoogleが説明している。数字の読み方と、SEO担当者・広告運用者が備えるべき点を整理する。

業界動向

HubSpotはブログ流入の約8割を失っても売上を伸ばした——「流入は誤った採点表だった」発言から読む、KPIの組み替え方

HubSpotのCMOは、AI回答の普及でブログのオーガニック流入が約8割減っても、2025年の売上は19%増だったと語った。自己申告の数字や人員削減報道という限界も踏まえつつ、流入KPIから商談寄与・AI上の存在感へ採点表を移す意味を、日本のオウンドメディア運用者向けに整理する。