HubSpotのCMOが「ブログのオーガニック流入は約8割失った。それでも売上は伸びた」と語った。月間2,000万訪問超だったブログが、AI回答の普及で大きく縮んだ形だ。Search Engine Journalのインタビュー記事でKipp Bodnar氏は、「流入は15年間、我々が失敗していると告げていた」と振り返っている。インバウンドマーケティングの教科書を書いた会社の言葉として、重い。
事実:流入は減り、売上は伸びた
同記事とHubSpotの決算資料(SEC提出)から確認できる数字は次のとおり。
- ブログのピークは月間2,000万訪問超。AI回答の拡大とともに約80%減(同氏の説明)
- 2025年通期の売上は31.3億ドルで前年比19%増(為替一定で18%増)
- コンテンツ由来リードの約90%は、ブログ以外の新しいチャネル(ニュースレター、クリエイター施策、ポッドキャスト、YouTube)から
- AI回答経由で訪れる人のコンバージョン率は、従来検索の約3倍(同氏の説明)
HubSpotはニュースレターのThe Hustleを2021年に買収し、ポッドキャストを2021年、クリエイタープログラムを2022年、YouTubeネットワークを2023年に立ち上げてきた。つまり「流入を失ってから慌てた」のではなく、数年かけて検索依存を薄めていた。
考察:KPIを入れ替えられた会社だけが耐える
筆者がこの発言で重要だと見るのは、数字よりも採点表の変更だ。同氏は、見る指標を「収益/訪問」「AI上のシェア・オブ・ボイス」「コンテンツが影響した商談」へ移したと説明している。
日本の多くのオウンドメディアは、いまもセッション数とPVを月次報告の主役に置いている。これらが減ったとき、現場には「記事を増やす」か「報告の言い訳を考える」しか選択肢がなくなる。WebTech Journalが直近で取り上げたAI検索の引用とブランド言及を4象限で測る方法や、GEOの測り方と契約の標準は、まさにこの採点表の再設計に必要な部品だ。
割り引いて読むべき点
この事例を万能の処方箋にするのは危うい。理由は3つある。
- 数字の多くは自己申告: AI経由リードの増加率(1年間で1,850%増とされる)や商談数は、第三者検証のない社内データだ。母数が小さい時期からの伸びである可能性もある
- HubSpotは例外的に強いブランド: ニュースレターやYouTubeに投資できる資本とブランド認知があった。中小のBtoB企業が同じ分散を再現できるとは限らない
- 好調一色ではない: 同社は10月6日に約660人(全体の約7%)の人員削減を発表したと報じられている。同氏は記事内でこの質問に答えていない。SEJの記述は報道ベースだ
さらに、同氏自身も「AI回答で自社が引用されてもクリックされない」ため、相関的なシグナルにすぎないと認めている。
日本のマーケターが今週できること
- 月次レポートの先頭を「流入」から「商談・受注への寄与」へ並べ替える試案を作る
- 流入が多くてもCVに結びつかない記事を棚卸しし、統合・削除の候補にする(HubSpotも低価値コンテンツを整理したと説明)
- 自社ブランドがAI回答に引用される頻度を、クリックと切り離して記録し始める
流入が減ること自体は避けられない。問われるのは、減った流入の中身を説明でき、減らない指標を別に持っているかどうかだ。