「AI経由の流入が伸びている」という話と、「レポートを見てもたいして増えていない」という現場の実感は、両方とも正しい。数え方が違うからだ。
645,000から260万へ、ただし全体の0.3%
アカウントベースドマーケティングのDemandbaseが8月12日、自社のLabs部門による計測を公開した。PPC Landの分析によれば、同社が計測するB2B向けWebプロパティへのChatGPT経由の月間リファラル訪問は、2025年6月の約64万5,000から2026年6月の260万へ、303%増えた。データは1,584のプラットフォームインスタンス、110億超の訪問、2025年6月1日から2026年7月31日まで。伸びは滑らかではなく、2026年5月に前月比で倍以上に跳ねている。
同時に押さえるべきは分母だ。110億訪問を約14か月で割ると月あたり7億8,600万前後。そこに対する260万は、計測トラフィック全体の約0.3%にあたる。1,584テナントに均せば、1テナントあたり月1,700訪問の増加でしかない。303%は実数ではなく、小さな基数の上の比率である。
他のアシスタントは追随していない。Demandbaseによれば、Perplexityからのリファラルは同期間に減少し、GeminiとClaudeは横ばい。ただし3社については絶対値もシェアも公開されていないので、「減った」「横ばい」がどの規模の話なのかはわからない。
本誌が先日報じたShopifyのQ2データでは、AI経由流入の伸びが8倍から3倍に減速していた。あちらはEC・消費者側、今回はB2B側。同じ「AI流入」という言葉が、セグメントによってまったく違う曲線を描いている。
8.8%という、もっと重要な数字
ここからが本題だ。
Similarwebが6月21日に公開した調査では、AIに推奨されたブランドは7日以内にサイト訪問を受ける確率が2.5倍になる。ただし、そのAI起因の訪問のうち、直接のリファラルとして到達するのは8.8%にすぎない。約56%はブランド検索を経由して着地している。
Demandbaseが数えた260万は前者だ。後者は数えられていない。つまり手元のレポートに映るAI流入は、実際にAIが動かした需要の1割前後ということになる。残りは「オーガニック検索(指名)」や「ダイレクト」の中に溶けている。
GA4は2026年5月、既定チャネルグループにAIアシスタント用のチャネルを追加した。認識済みのアシスタントからのリファラを検出すると、mediumディメンションに ai-assistant が自動で入る。それ以前は手動のカスタムチャネルグループが必要で、かなりの割合がダイレクトに落ちていた。改善ではあるが、拾えるのは8.8%側だけであることは変わらない。
「AI流入の質」は、まだ誰も決着をつけていない
流入の価値についても、公開データは真っ二つに割れている。
Invocaが7月14日に出したベンチマークでは、ChatGPT経由の電話がリード化する率は49%で、同社が計測した全チャネル中で最高だった。Ahrefsの調査ではAI検索経由の訪問者のコンバージョン率が従来オーガニックの23倍。Microsoft Clarityが1,200超のパブリッシャー・ニュースサイトを分析した結果では3倍。一方で、973のECサイト(合計売上200億ドル規模)を対象にした調査では、ChatGPT経由の流入はコンバージョン率でもセッションあたり売上でも従来チャネルを下回った。
3倍から23倍まで散らばり、下回る結果もある。これは「AI流入の質」という単一の変数が存在しないことを示している。手法と業種で結論が変わる以上、他社のベンチマークを自社の期待値に使うのは危うい。
IABが8月にまとめた計測標準では、AI可視性を何らかの形で計測しているブランドは16%にとどまる。20社超のベンダーが同じブランドについて食い違うスコアを売っている状況で、この16%という数字は「まだ誰も基準を持っていない」ことの裏返しでもある。
実務としてどう設計するか
AI流入のリファラ数をKPIにしない。 8.8%を最大化する施策は、残り91.2%を素通りする。伸びても縮んでも、意思決定の材料にならない。
指名検索のボリュームを、AI可視性の代理指標として基準線化する。 Search Consoleのブランドクエリのインプレッションと、GA4のAIアシスタントチャネルを並べて置く。前者が動いて後者が動かない、という乖離こそが56%側の輪郭になる。
チャネルの脆さを前提に置く。 2025年8月、Profoundの調査はOpenAIがRedditとWikipediaへ引用の重みを移した結果、ChatGPTからのリファラルが7月下旬比で52%落ちたことを記録している。1回のランキング変更で半減し、また倍増する。これは配信チャネルというより、依存先の挙動だ。
そしてもう一点。DemandbaseもSimilarwebもInvocaも、自社プラットフォームのデータを自社の営業材料として出している。方法論は記述されているが監査はされていない。数字を使うときは、その条件ごと引用するのが誠実だろう。