2026年10月12日(月)
業界動向

Googleが自ら「29年で最大の品質低下」と呼んだ改修——EUで起きたことは、9条を持つ日本に来るのか

9月8日、GoogleはEEA向け検索結果を大きく作り替えた。同社はロイターに対し「29年の検索の歴史で最大のサービス品質の低下」と説明している。同じ日に検索セントラルが公開した「検索エクスペリエンスの地域差」は、EEA・トルコ・南アフリカで別々の検索結果が動いていることを公式に認めた文書だ。日本にも検索の自社優遇を禁じるスマホ法9条があるが、条文を読むと制裁の重さがEUとは桁で違う。何が変わり、日本のSEO担当者は何を今のうちに測っておくべきかを整理する。

WebTech Journal 編集部

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自社のリリースを「品質の低下」と呼ぶ企業はほとんどない。Googleはそれをやった。EUのデジタル市場法(DMA)対応としてEEA向け検索結果を改修した件について、同社はロイターに「世界で最も利用されている検索エンジンの29年の歴史において、最大のサービス品質の低下にあたる」と述べている(Search Engine Land)。この一文は、Googleが規制当局と世論に向けて同時に投げた球でもある。だが、そこで止めずに「では実際に何が消えたのか」を見ると、検索の見え方そのものが地域ごとに分岐し始めていることがわかる。

消えたのは「リンク」ではなく「価格と在庫」だった

改修後のEEAの検索結果では、フライト・ホテル・レストランなどのクエリに対して2つのユニットが並ぶ。第三者のアグリゲーター/予約サイト向けのユニットと、ホテルや航空会社そのものが入るダイレクトサプライヤー向けのユニットだ。重要なのは後者に加えられた制限で、EU域内のユーザーは検索結果の中で日程による絞り込み、ライブ価格の確認、「バジェット」「ブティック」といった記述的なタグでの絞り込みができなくなった。バケーションレンタルのユニットは検索結果ページから撤去され、フィードはGoogleマップやgoogle.com/hotels側に回る。これらの変更はAI OverviewsとAIモードにも及ぶ(Skift)。

つまり削られたのは掲載枠の数ではなく、その場で意思決定を完了させる機能だ。検索結果内で日付と価格を見比べられなくなれば、ユーザーはどこかのサイトへ出ていくしかない。Googleが「品質の低下」と呼ぶのはこの部分であり、逆に言えば競合のアグリゲーターにとっては、ユーザーが自社サイトに到達する確率が上がる変更でもある。どちらの評価が正しいかは、当事者ではない第三者の計測が出てくるまで判断を保留するのが妥当だろう。現時点で公開されているのは、Googleの自己申告と欧州委員会の意図表明だけだ。

見落とされている本題は、同じ日に出たドキュメントのほう

改修と同じ9月8日、Google検索セントラルは「検索エクスペリエンスの地域差」というページを公開した。EEAではアグリゲータユニット、サプライヤーユニット、エコシステムカルーセル(天気・スポーツ・金融・翻訳)、求人サイトの機能が動き、トルコではホテルとローカルビジネスに「プレイスサイトの機能」があり、南アフリカには旅行・商品・レンタカー・フードデリバリー向けのバッジと絞り込みチップがある——という対応表が、公式ドキュメントとして整理されている。

これは規制対応の副産物ではなく、地域別の検索結果ユニットがGoogleの製品ラインとして常設化したことの表明に近い。1つ作れば2つ目の限界費用は下がる。EEA向けに設計したアグリゲータ/サプライヤーの枠組みは、別の法域から同種の要求が来たときに再利用できる資産になった、と筆者は見ている。

日本の9条には、EUと同じ圧力がない

日本にも同じ趣旨の条文がある。2025年12月18日に全面施行されたスマホソフトウェア競争促進法の第9条は、検索エンジンの指定事業者に対し、検索結果で自社の商品・役務を「正当な理由がないのに」競合より優先的に取り扱うことを禁じている。Google LLCは2025年3月26日に、モバイルOS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジンの4分野で指定を受けている。

ただ、条文を読むと制裁の設計が違う。課徴金を定める第19条が対象にしているのは第7条と第8条第1号・第2号の違反であって、検索の自社優遇を禁じる第9条は含まれていない。9条違反に対して公取委が持つ主な手段は排除措置命令であり、売上高比例の課徴金は直接には結びつかない。対してEUは7月23日、DMA違反でGoogleに8億9000万ユーロ(検索の自社優遇分が4億6000万ユーロ、Playのステアリング分が4億3000万ユーロ)の制裁金を科し、60日以内の是正を求めた。9月8日の改修は、その期限に間に合わせたものだ。

同じ「自社優遇の禁止」でも、動かす力の大きさが違う。日本で同種の構造変更が起きるとすれば、EUより遅く、かつ穏やかな形になる可能性が高い——これが現時点での筆者の見立てだ。ただし前段で述べたとおり、Googleにとって地域別ユニットの製造コストはすでに下がっている。「日本向けに何か出す」ハードルは、1年前より確実に低い。

今週やっておくべき4つのこと

  1. EEA向けトラフィックがあるなら、9月8日を境にSearch Consoleを国別で分割して控える。 後から「いつ変わったか」を特定するのは難しい。旅行・EC・求人・不動産系は特に。
  2. アグリゲーター側の事業者は、アグリゲータユニットの対象クエリ(ホテル、フライト、陸上交通機関、商品)と適格条件を確認する。 枠が増えたのは事実で、取りに行かない理由がない。
  3. ダイレクトサプライヤー側は、価格と空き状況を検索結果内で見せる導線が塞がった前提で設計し直す。 構造化データカルーセルはEEAでも残っており、マークアップが実装条件になっている。
  4. レポートの前提から「検索結果は世界共通」を外す。 本誌が先日報じた順位を主KPIから外す議論とこれは地続きだ。地域ごとにSERPの構造が違うなら、単一の順位平均が示す意味はさらに薄くなる。

日本のマーケターにとって当面の実務インパクトは小さい。だが「検索結果は法域ごとに違う商品である」という前提は、レポートの作り方も、海外展開時の見積もりも変える。9月8日は、その前提が公式ドキュメントに書かれた日として記憶しておく価値がある。

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