米国の広告市場予測が+9.5%から+12.3%へ引き上げられた。だが8つのチャネルのうち、上方修正されなかったものが4つある。そのひとつが検索連動型広告だ。
IABが9月10日に公開した「2026 Outlook Study: September Update」は、200名超のブランド・エージェンシーの投資意思決定者への調査をもとに、2026年通年の米国広告費成長率見通しを12.3%に改めた。1月時点の予測は9.5%だったから、2.8ポイントの上振れになる。冬季五輪とFIFAワールドカップという大型イベントが上半期を押し上げ、マクロ経済への警戒が緩んだことが理由とされる。
全体が上がった年に、検索だけが上がらなかった
チャネル別の修正幅を並べると、この上振れが均等でないことがすぐわかる。
| チャネル | 9月予測 | 1月予測 | 修正幅 | |---|---|---|---| | ソーシャルメディア | 16.5% | 14.6% | +1.9pt | | CTV | 15.6% | 13.8% | +1.8pt | | コマースメディア | 13.6% | 12.1% | +1.5pt | | デジタル動画(CTV除く) | 9.4% | 9.6% | -0.2pt | | ポッドキャスト | 8.7% | 8.6% | +0.1pt | | 検索連動型広告 | 8.1% | 8.2% | -0.1pt | | DOOH | 7.0% | 7.4% | -0.4pt | | リニアTV | -1.5% | -1.7% | +0.2pt |
上位3チャネルが1.5〜1.9ポイント上振れする一方、検索は0.1ポイントの下方修正で据え置かれた。市場全体が2.8ポイント上振れた年に横ばいということは、相対的なシェアを落としたということだ。
ここからは筆者の考察になるが、この一枚の表は「検索広告が縮んだ」話ではない。8.1%は絶対値としては健全な成長だ。問題は、五輪とW杯で膨らんだ予算が検索には流れなかった、という配分の事実にある。大型イベントの需要はソーシャルとCTVが吸い上げた。検索は、イベントで増えた関心を刈り取る受け皿としては期待されなかった可能性がある。
「AIをどう使うか」から「AIを使う消費者にどう届くか」へ
調査のもうひとつの軸は、AIをめぐる問いの変質だ。
事実として、メディア投資上の最大の課題に「AI検索を含む消費者行動の変化への適応」を挙げた買い手は44%で首位。「AIスロップ(低品質なAI生成コンテンツ)」への懸念が38%で続く。一方、注力度が増している領域の1位は「AI生成回答に向けたコンテンツ最適化」で76%、次いで「AI/LLMモデル」が72%だった。対照的に「キャンペーン制作でのAI活用」は69%で、1月の78%から9ポイント下がっている。
IABのChris Bruderle氏はこれを「マーケターはAIをどう使うかに時間を費やしてきた。いま問いは『AIを使う消費者にどう届くか』に変わりつつある」と表現した。制作の効率化から、生成AI環境内での可視性へ。関心の重心が移動している。
本誌が9月11日に報じたコンテンツマーケティングの成果が12年で最低の13.9%に落ちた調査と重ねると、この移動には説得力がある。AI利用率92.4%が成果と無相関だったという結果は、制作側でのAI活用がもう差別化要因ではなくなったことを示していた。IABの数字は、その裏側で買い手の関心がすでに次の問いへ移っていたことを示している。
86%が「測り方を変える」と答えた
最も実務に響くのは測定の項目だろう。会話型AIツールとAIエージェントの影響で、今後12か月以内にメディア成果の測り方を「すでに変えた、または変える見込み」と答えた買い手は86%に達した。
対応策として最も多かったのは「AIツール内でのブランド可視性と引用の直接測定」で48%。以下、指名検索とダイレクトトラフィックを代理指標に使う、サードパーティのAI発見分析ツールを追加する、AIプラットフォーム上の相互作用と参照を監視する、インクリメンタリティ検証を増やす、と続く。
ただし、うまくいっているとは言っていない。45%が「AI経由の顧客ジャーニーと従来型のそれを比較することの難しさ」を測定上の最大の課題に挙げている。手段は増えたが、統合された一枚の絵にはなっていない。
日本のマーケターは何を持ち帰れるか
これは米国の買い手を対象にした調査であり、日本にそのまま当てはめることはできない。上振れの主因とされた大型イベント需要も、開催国である米国と日本とでは規模が違う。それでも3点、実務に落とせるものがある。
第一に、予算配分の議論では「検索は据え置き、増分はソーシャル・CTV・コマースメディアへ」というのが少なくとも米国買い手の総意だという事実を、根拠として使える。日本で同様の配分転換を提案するとき、感覚論ではない材料になる。
第二に、AI可視性の測定を「来期の検討事項」に置いている場合、それは米国の買い手の86%より遅い。本誌が報じた日本のAI検索利用率が52.3%で初めて過半数に達したというデータと合わせれば、日本でも先送りできる期間は残り少ない。
第三に、注力する広告タイプの上位が示唆的だ。クリエイター/インフルエンサー連携54%、デモグラ・コホートターゲティング53%、ファーストパーティデータを持つパブリッシャー48%、コンテキスト広告45%。いずれも「誰が言ったか」「どこに出たか」で信頼を担保する手法である。行動ターゲティングの精度で勝負する時代から、掲載文脈と発信者の信頼で勝負する時代への揺り戻しが、数字に出ている。
一方で、慎重に見るべき点もある。この調査は買い手の自己申告であり、実支出ではない。IABは業界団体であり、市場の成長を大きく見せる動機を構造的に持つ。David Cohen CEO自身が「経済には本物の不確実性がある。成長は見つかるが、簡単な勝ちはない」と述べており、12.3%という数字は下半期の景気次第で再修正されうる。数字を根拠に使うときは、1月から9月にかけて2.8ポイント動いたという事実自体が、この予測の可変性の証拠でもあることを添えておくのが誠実だろう。